第3章99話:宝物庫の扉
私は遺跡の扉の前に立つ。
「この入り口、どうやって開けるんでしょうか?」
押したり引いたりして開けるようには見えない。
かといって、横開きでもなさそうだ。
そのときシャーロット殿下が、アイテムバッグから剣を取り出した。
ただの剣ではなく、装飾がほどこされた宝剣である。
シャーロット殿下が言った。
「これは【セレネスの宝剣】。王城の宝物殿から取ってきたものです。遺跡の入り口は、この宝剣を使って開けますの」
彼女は宝剣を遺跡の扉へとかざした。
すると、宝剣と扉が光をまとい始める。
次の瞬間。
遺跡の扉が、スッと空気に溶けていくように消失した。
へえ、面白い仕掛けだ。
「さ、参りましょう」
扉の向こうには下へと続く階段があった。
シャーロット殿下が遺跡へと入り、階段を下りていく。
私たちはその後に続いた。
階段はらせん状になっていて、どんどん下へと降りていく。
空気はひんやりとしていて、私たちの足音以外、物音はしない。
やがて階段を下りきると、通路が現れた。
直線通路だ。
左右の幅は15メートル。
天井は5メートルほどあり、結構高い。
私たちは、通路を進み始める。
一本道なので、迷うことはなかった。
やがて、一つの部屋に到着した。
左右25メートルぐらいの中部屋である。
壁や天井、床などは煉瓦造りだ。
正面奥には扉がある。
他には何もない部屋。
シャーロット殿下が告げる。
「あれが、宝物庫の扉ですわ」
私は言った。
「……なるほど。部屋にあるのは扉だけですか」
「いいえ」
シャーロット殿下が、私の言葉を否定する。
それから扉の横の壁へと近づいた。
すると、壁がざわりとゆらめく。
半透明の四角いボードのようなものが現れた。
さながらそれは、魔法の掲示板というべきもの。
なにやら文字が書かれている。
「読めませんね……」
「旧リズニス語ですわ。わたくしが読み上げましょう」
シャーロット殿下が、読んでくれる。
内容は、以下のようだ。
『宝物庫の扉を開けたければ、暗号を解読するがいい』
『※なお、扉を強行突破しようとした場合、宝物庫を爆破する仕掛けを施している。決して反則行為はせぬように!』
これは……ドラル・サヴローヴェンが残した言葉だろうか?
暗号……とは?
首をかしげていると、ユレイラさんが説明してくれた。
「暗号とは、この扉に書かれている文字のことです」
ユレイラさんが、宝物庫の扉を指差す。
彼女の言う通り、扉の中央には、なにやら文字が書かれていた。
ふたたび殿下が読み上げてくれる。
内容は以下だ。
『獣骨・水銀・銀・鉛・プラチナ・呼吸で得るもの・鉄・獣骨』
さらに、その下には横15マスの空欄が存在した。
シャーロット殿下が説明する。
「この空欄部分は、文字を入力することができます。正しい文字を入力できなかった場合、その文字は自動的に消去される仕組みのようですわ」
へえ……なるほどね。
ドラル・サヴローヴェンもずいぶんと凝った仕掛けをするものだ。
王城のセキュリティなどでも使えるよね、このシステム。
「まるでパスワードですね」
私はぽつりと言った。
「ぱすわーど、ですの?」
「……いえ、なんでもありません」
異世界の人はパスワードという概念を知らないだろう。
だから深く語ることはやめておく。
「この扉には、術式が施されていますわ。その術式を解くためには、おそらく、この暗号文を解読しなければなりません」
「これが200年、誰も解読できなかった暗号というわけですか」
「はい」
私の問いに、シャーロット殿下が肯定を返す。
面白い。
さっそく、謎解きを始めるとしようか。
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