第3章97話:ダルネアとの語らい
食後、立派な湯殿でお風呂をいただく。
それが済むと、リビングにて、私はダルネア公爵と語り合った。
部屋には、私、公爵、アリスティ、老執事の四人がいる。
シャーロット殿下とユレイラさんは、先に休むと言って寝室に向かった。
……ダルネア公爵は、私の数学知識を熱心に聴きたがった。
私は特に隠すことなく、自身の知る知識を彼女に伝えた。
結論から言うと、ダルネア公爵は確かに数学の天才であった。
驚くべき吸収力で私の知識を理解し、咀嚼し、ハイレベルな質問を返してくる。
一を聞いて十を知るとは、まさにこのことだ。
数学IQが違いすぎることに、私は若干嫉妬を覚えるほどであった。
しかし、前世の数学知識を語るのは、懐かしい思いもあり……
私はダルネア公爵との語らいを、心から楽しんだ。
―――そして。
翌朝。
食堂で全員が集まり、朝食をとり始めたとき、ダルネア公爵が言った。
「エリーヌは、数学の天才ね」
シャーロット殿下はきょとんとしてから、聞いた。
「そうなんですの?」
「ええ。これは大げさな表現ではなく、真面目な話だけれど……昨夜、エリーヌは数学の歴史を変えたわ。わが国の数学研究は、数段レベルアップすることになるわね」
「あなたがそこまで認めるなんて、よほどのことですわね。そんなにエリーヌさんは、数学の造詣が深いんですの?」
「造詣が深いなどというものではないわ。あたしたちが今まで研究してきた数学は、お遊びに過ぎなかったと自覚したほどよ」
私はさすがに恥ずかしくなったので、口を挟んだ。
「あ、あの……褒めていただけるのは嬉しいですが、私は数学の天才ではありません。人よりいくらか知識があるというだけで、数学力はダルネア公爵のほうが上です」
「その知識が、宝の山なのよ! ドラルの遺跡よりも、あなたの頭脳のほうが、よっぽど宝物庫と呼ぶにふさわしいわ!」
ダルネア公爵が興奮気味に言った。
「ああっ、今日でお別れなんて、あまりにも名残惜しいわ! もう一生ここで住んでいきなさいよ、エリーヌ?」
「さすがにそれは無理です。私には世界を旅するという大事な趣味がありますので」
私はそう断った。
数学の話をするのはそれなりに楽しいことだが、異世界を旅するという夢には変えられないからね。
こうして朝食が過ぎ、私たちは屋敷を出る。
老執事とダルネア公爵が見送りにやってきた。
私はキャンピングカーをアイテムバッグから出す。
すると、ダルネア公爵は目を見開いた。
「へえ。これがあなたの錬金魔法で創った、新型の馬車なのね?」
「はい。キャンピングカーと言います。旅に便利な機能を搭載した、私の愛車です」
「ふうん。あなたほどの人が作った馬車なのだから、さぞ素晴らしい乗り物なんでしょうね。いつか、あたしも乗せていただけるかしら?」
「ええ、それはもちろん。喜んで」
私は答えると、ダルネア公爵は微笑んで言った。
「そのときを楽しみに待ってるわね。じゃあ、またね」
「はい、また」
別れの挨拶を済ませ、私たちはキャンピングカーへと乗り込んだ。
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