第3章96話:公爵邸のディナー


ダルネア公爵は、遺稿を渡してから、述べる。


「シャーロット……あなた、ドラル遺跡を解くつもりなのね。目的はやはり、永世巫女になることかしら」


「はい」


「そう、やっぱりね。まあ言わなくてもわかってると思うけど、茨の道よ? あなたが永世巫女になることを祝福する者はいないし、むしろ、恨む者がほとんどでしょう。だって、永世巫女などになったら、王位継承権を剥奪されるでしょうからね。あなたが女王になると信じて、皆、あなたの背中についてきたのよ」


「それは……わかっていますわ。でも、わたくしは」


「あの男との世継ぎを産みたくない? 贅沢なわがままね。ほんのすこし我慢すれば、女王になれるのに。あたしも公爵令嬢の義務として、好きでもない夫の子を、二人も産んだわよ。まあ、その夫はさっさと病死して、いまのあたしは悠々自適だけれどね」


夫の死を少しも悲しんでいないばかりか、喜んでいる節さえあるダルネア公爵。


まあ、貴族の夫婦なんてこんなものだ。


稀に仲の良い夫婦もいるが、だいたいはドライである。


わがブランジェ家も、両親の仲が良かった記憶はない。


ディリスの愛情は、自身が産んだ子女たちに向けられており(エリーヌを除く)、夫が戦争で亡くなっても、ディリスは無関心だった。


「単に結婚が嫌だという想いもありますが、わたくしは、ルシェスを王家に迎え入れるのは危険だと考えていますの。ここだけの話ではありますが」


「ふうん? まあ、あなたの人生だし、これ以上の口出しはやめておくわ。永世巫女になるというなら、せいぜい頑張りなさい」


「ええ」


永世巫女に関する話題はそこで終わった。


ダルネア公爵は、切り替えるように言った。


「ああそうそう。急ぎでないなら、今夜は泊まっていけばいいわ。あたし、エリーヌさんともっとお話をしたいのよね」


ふむ……お話。


数学に関する話だろうか?


シャーロット殿下が尋ねてきた。


「どういたしますか? エリーヌさん」


私は答える。


「そうですね……もう日も暮れてきていますし、泊めていただけるなら、ありがたいです」


「じゃあ、決まりね!」


ダルネア公爵は嬉しそうに言った。





こうして私たちは、ダルネア公爵邸に宿泊することになった。


夕食をいただく。


メニューは、


胡椒の野菜スープ。


バジル風ソースの魔物肉ステーキ。


パン。


はちみつをかけた焼きリンゴ。


大海老の塩焼き。


などなど。


さすが公爵邸のディナーは豪勢なものだった。


特に海老が出てきたことには驚きだったが、リズニス王国は海に面しているし、ベールシィル領は海岸に近い領地だ。


海産物が簡単に手に入るのだろう。


私たちは、そのご馳走を存分に満喫した。

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