第3章95話:遺稿



かつてフェルマーは、本業のかたわら、趣味として数学をたしなんでいた。


そのとき思いついた定理や証明問題を、ノートの余白に書き残していたのだ。


フェルマーの死後、そのノートに記された問題の多くは、後世の数学者たちによって証明されていったが、最後に一つだけ、誰にも解けない難問が存在した。


それが【フェルマーの最終定理】である。


最後に残った問題だから、"最終定理"と呼ばれたのである。


しかし、そもそも証明が済んでないものを定理とは呼ばないので、あくまで【フェルマーの最終定理】という呼び方は俗称だ。


正式には【フェルマー予想】というのが正しい。


まあ地球では既に証明されているから、最終定理という呼び方でもいいと思うけどね。


あくまで異世界では"予想"としておくのが正確だろう。


「ちなみに、フェルマー予想の解答を、あなたは存じているのかしら?」


ダルネア公爵が尋ねてきたので、私は首を横に振った。


「いいえ。私はその証明方法を存じ上げません」


「そうなのね。この問題は、あたしのライフワークにしてもいいかもしれないわ。学会に発表してもいいかしら?」


「それは……お好きにどうぞ」


私はそう答えた。


シャーロット殿下は言った。


「で……遺稿についてですけれど」


「わかっているわよ。ちょっと待ってて」


ダルネア公爵が、部屋の隅にあった書棚から、一冊の文献を取り出した。


「ほら、持っていきなさい」


公爵から、文献を受け取る殿下。


どうやらその文献こそが、ドラル・サヴローヴェンの遺稿のようだ。

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