第3章93話:説明終了


私は言った。


「ダルネア様に出題したい問題は、まさにこの証明です。整理するために、問題内容を以下に書かせていただきますね?」


そう前置きしてから、羊皮紙に問題文を記した。




『nが3以上の自然数である場合において、


a^n + b^n = c^n


を満たす自然数a,b,cは存在しない


……ということを証明せよ』




「では、1時間以内に解いてください。解けなかった場合は……遺稿を譲っていただけますね?」


はっきり言って、これは意地悪な話だ。


なぜなら、わずか1時間では、絶対にこの問題を解けるわけがないからだ。


この証明問題は【フェルマーの最終定理】と呼ばれる数学の超難問である。


数学の難問は、そもそも、問題文の意味すら理解できないことが多い。


しかし、フェルマーの最終定理は、問題文が非常にわかりやすいのが特徴だ。


一見すると、学生の試験などで出題されていてもおかしくないぐらい、簡単な雰囲気をかもしている。


ところが、17世紀にフェルマーがこの証明問題を発見してから、300年近くのあいだ、どんな天才にも解くことができなかった。


ゆえに、これを1時間で解くなどというのは、絶対に不可能である。


ダルネア公爵は言った。


「なるほど……ただの錬金魔導師とあなどっていたことを謝罪するわ。この証明問題は、驚くほど興味深い」


彼女は興味深げな様子で、そう告げた。


尊大な態度で続ける。


「でも、あたしはどんな問題でも、1時間以内で解くことができる。あたしに解けない数学なんて、この世には存在しないわ」


堂々と言い切ったダルネア嬢。


いいのかなぁ、そんなイキっちゃって……


まあ、せいぜい頑張ってもらうことにしよう。


シャーロット殿下は言った。


「それではわたくしたちは、別室で待機しておりますわ。茶菓子を用意してもらえますかしら?」


「ええ。そのあたりのことは執事に頼んでちょうだい」


「わかりましたわ」


私たちは執務室をあとにした。


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