第3章91話:問題の説明


まず私は、羊皮紙に直角三角形を描いた。


それから言った。


「ではまず、ここに直角三角形があったとします。縦の長さが3、横の長さが4のとき、斜めの長さはいくつになるでしょう?」


「5になるわね」


「正解です」


さすがにダルネア嬢も、この程度でつまづくことはない。


そのとき、問題を聞いていたユレイラさんが尋ねてくる。


「……? 何故5になるのですか?」


私は答える。


「そういう定理があるのです。直角三角形の縦の2乗と、横の2乗を足せば、斜辺の2乗と等しくなる――――というものです。これを【三平方の定理】と言います」


「へぇ……そんな定理が」


【三平方の定理】は、前世では紀元前に発見された定理である。


三平方の定理は、現代日本人にとって常識レベルの公式だろう。


しかし異世界では、数学者などしか知らない定理の一つだ。


私は言った。


「ちなみに、【三平方の定理】を式で書くとこうなりますね」


羊皮紙に羽根ペンで書きつける。



a^2 + b^2 = c^2



するとシャーロット殿下がぽつりと言った。


「見慣れない文字ですわね?」


ああ……


この世界ではアルファベットは使われないからね。


私は読み方だけ説明しておいた。


「ただの記号です。これはエー、これはビー、これはシーと読みます。【^2】は2乗と読みます」


「そうなんですの」


「はい。ですからこれはエーの2乗と、ビーの2乗を足したら、シーの2乗に等しくなる……という意味の式です。ちなみに、エー、ビー、シーは全て自然数であるとします。直角三角形では、この公式が成立しますね」


ユレイラさんが感心したように言った。


「【三平方の定理】とやらを数式であらわしたのですね。こんなスッキリした式になるんですか」


「本当に素晴らしい数式とは、とても簡潔で、美しいものですよ」


私はそう告げる。


そのとき、ダルネア公爵が鼻を鳴らして言った。


「三平方の定理は、数学の高度な専門書に書かれているような知識よ。それを知ってることは褒めてあげてもいいけど、まさかこの程度の知識をひけらかして終わり……なんてことはないわよね?」


挑発的な物言いであった。


「ええ、もちろんです」


私は、微笑みながらそう答える。


本題はここからだ。

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