第3章90話:ダルネア公爵邸
その日は観光を行って……
夜、高級宿に宿泊する。
翌日。
昼。
私は暇だったので、キャンピングカーの寝室にこもってアイテム錬成を行うことにした。
錬成したのは、小型化した音響兵器である。
現在所有している音響兵器はそこそこサイズがあり、場所を取るので、もっと小さくできないかと考えた。
できれば『そこに兵器がある』と気づかれないようにするのがベターだ。
というわけで、開発したのが指輪型の音響兵器である。
【音響指輪】と名付けておこうか。
この【音響指輪】は、指に装着したあと、指輪のスイッチを押せば、使用できる。
全方位ではなく単方位に音波が飛んでいく形式である。
人差し指につけておけば、親指でスイッチを押せるので、片手の指だけで兵器を操作できるのがポイントだ。
たとえば両腕を羽交い絞めにされ、身動きが取れない状態でも、親指さえ動けば音響兵器を発動できる。
なお、必要のないときにうっかりスイッチを押してしまわないように、スイッチの上には安全蓋をつけてあり、これを親指で外してからスイッチを押す流れになる。
さて……完成したら、使用感のテストだ。
私は一人でキャンピングカーの外に出て、魔物に【音響指輪】を使ってみた。
草原のウルフに音響指輪の音波攻撃はきちんと作用し、昏倒させた。
テスト成功だ。
そのウルフにナイフでトドメを刺したあと、私はキャンピングカーに戻った。
ベルーシィル領に来てから3日が経った。
私たちはキャンピングカーで昼食を摂ったのち、再び公爵邸を訪れる。
すると老執事が応対してくれて、中に招き入れてくれた。
屋敷のエントランスを抜ける。
廊下を歩き、一番奥にある部屋に通された。
どうやら執務室のようである。
中に入ると、正面の執務机に一人の女性が腰掛けていた。
ドレス姿の女性である。
緑髪のロングヘアであり、吊り目の瞳。
気の強そうな雰囲気をかもしていた。
「いらっしゃい、シャーロット。久しぶりね」
さすが公爵。
第一王女を呼び捨てだ。
身分的には王女のほうが上なのだが……
おそらく、古くからの付き合いなのかもしれない。
「ええ、お久しぶりですわ」
「それで、用事は何かしら? またドラル・サヴローヴェンの遺稿に関して?」
「はい。此度もその件で」
「ふうん? 言ったと思うけど、あたしが1時間以内で解けない難問を持ってこない限り、遺稿を譲るつもりはないわよ」
「もちろん、わかっておりますわ。そこで今回は、とても優秀な錬金魔導師を連れてまいりましたわ」
「錬金魔導師?」
怪訝そうな顔をしたダルネア公爵は、そこではじめて、私とアリスティに目をやった。
シャーロット殿下が紹介する。
「彼女はエリーヌ。最近わたくしが見つけてきた錬金魔法の天才です」
天才……と紹介するのは辞めていただきたいのだが、私はとにかく挨拶をする。
「エリーヌ・ブランジェです。数学の難問をお求めだとうかがったので、王女殿下の依頼を受けて、とっておきの問題をお持ちいたしました」
「へえ? 錬金魔導師ごときが、このあたしを唸らせる問題を用意したと?」
「はい。ダルネア公爵は数学の天才だと聞きました。ならばこそ、この難問はきっと気に入られるでしょう」
私は堂々と言い放つ。
ダルネア公爵は、興味を惹かれたようだ。
「面白いわね。そこまで言い切るなら、その難問とやらを提示しなさい。ただし、くだらない問題だったら、罰を与えるわよ」
ふむ。
なかなか過激な公爵様だ。
まあ、いい。
私が罰を与えられることなど、万に一つも有り得ない。
なぜなら、これから私が提示する問題を、1時間で解くなんて絶対に不可能だからだ。
「とりあえず紙を用意しますね」
「これを使いなさい」
ダルネア公爵が、羊皮紙と羽根ペンを差し出してきた。
「ありがとうございます。では――――」
私は、用意してきた難問について、説明をはじめた。
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