第3章89話:ベルーシィル領、到着


<ルシェス・イグーニドラシェル視点>


ギルドオフィス。


ルシェスの執務室。


イグーニドラシェルの報告を聞いたルシェスが、驚いたように聞き返した。


「なっ……シャーロットたちを見失ったって?」


「ああ。連中、見たことのない馬車に乗って移動し始めてな。馬でなんとか追跡したが、だんだん引き離され、やがて見失った」


「見たことのない馬車とは?」


「正確なことはわからん。たぶん新型の馬車だろうな。いや、馬を使っていなかったから、馬車と呼ぶのは正しくないかもしれないが」


「馬を使わない馬車、か……シャーロットめ。そんなものを用意していたとは」


ルシェスは歯噛みした。


まさか移動能力の差で追跡を封じられるとは、ルシェスも想定していなかった。


ルシェスは尋ねる。


「向かった方角は?」


「ああ、それがだな――――」


イグーニドラシェルが答える。


どうやらシャーロットたちが向かったのはドラル遺跡ではないようだ。


ではどこに向かったのか?


ルシェスは推測する。


すぐに答えにたどり着いた。


「おそらくダルネアのもとへ向かったんだろうね。ベルーシィル領に寄り道してから、遺跡に向かうつもりだろう」


「なら、これから私たちもベルーシィル領に向かうか?」


「いや……僕たちがベルーシィル領に到着するころには、向こうはとっくに用事を終えて領を発っているかもしれない」


「なら遺跡に先回りするか?」


「そうだな。それが賢明だろう」


ルシェスはそう答えた。


イグーニドラシェルはきびすを返す。


「ではさっそく出発する」


「待ってくれ。僕も行こう」


「……? 貴様も? 何をするつもりだ?」


「遺跡で戦うなら、僕がいたほうが都合がいいんだ。なぜならあそこの領主とは、"仲良し"だからね」


仲良し……という言葉に込められた意味は、当然、ろくなものではない。


イグーニドラシェルは苦笑した。


「そうか。まあ依頼主は貴様だ。貴様のしたいようにするといい」


「ああ、助かるよ」


こうして、エリーヌ暗殺のために、ルシェス自ら出向くことになった。





<エリーヌ視点>


翌日。


朝。


晴れ。


私たちは、目的地であるベルーシィル公爵領に到着した。


公爵領だけあって、広大であり、街や村がいくつも存在するようだった。


キャンピングカーは小一時間かけて公爵領都へと向かい、昼には辿り着く。


公爵邸の近くまで行き、キャンピングカーを下りて片付けたあと、屋敷を訪れる。


が、しかし。


「ダ、ダルネア様は、現在遠出をしておりまして……」


公爵邸前。


王女の急な来訪にたじたじになっていた老執事が、そう答えた。


シャーロット殿下は言う。


「そうですの。まあこちらもアポ無しの来訪でしたから、仕方ありませんわね。いつお戻りになられますの?」


「3日程度でお帰りになるとおっしゃっておられました」


「わかりましたわ。では、3日後にまた訪れますから、ダルネア嬢によろしく申し伝えておいてください」


「かしこまりました」


私たちは立ち去る。


公爵邸を離れてから、殿下は言った。


「さて、3日間、暇になってしまいましたわね」


私は言った。


「仕方ありませんね。適当に時間を潰しましょう。せっかく公爵領都に来たのですから、観光とかもしてみたいですし」


「それならわたくしが案内してさしあげますわ。ここの領都は、昔から知っていますもの」


「そうなんですか。では、お願いしていいですか」


こうしてシャーロット殿下の案内で、私たちは領都観光を行うことにした。



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