第3章87話:出発


<エリーヌ視点>


翌朝。


高級宿、最上階の一室。


私は、目を覚ました。


窓から採光が差し込んでいる。


起き上がった私は、大きく伸びをしてから、窓の外を眺める。


美しい陽光に照らされる王都の街並みが広がっていた。


「うん、良い眺めですね」


朝の清新な街景色。


私はひとつ深呼吸をしてから、部屋を去った。





朝食を食べてから、殿下たちと王都を出て、街道に出る。


キャンピングカーをアイテムバッグから取り出す。


「それで、行き先はどちらですか?」


私はシャーロット殿下に尋ねた。


「ダルネア嬢のもとへ参りますわ。地図で示唆しますので、とりあえず乗車いたしましょう」


「わかりました」


私たちはキャンピングカーに乗り込む。


運転ゴーレムに命じて、発進した。





街道を走る。


北東方面に伸びた街道である。


その方角に、ダルネア嬢がいるというベルーシィル領がある。


まずはそこでダルネア嬢に会った後、遺跡に向かう予定となった。


テーブルに着いた私は、向かい合って座る王女へ尋ねた。


「えっと……そのダルネア嬢という方に、ドラル・サヴローヴェンの遺稿を貰いに行くんでしたっけ?」


「ええ、そうですわ」


「確か、難儀な交渉になるとおっしゃってましたよね」


「はい」


シャーロット殿下が答えてから、ユレイラさんが説明した。


「ダルネア様は、数学の天才でいらっしゃいます」


「……ん、数学?」


いきなり何の話だと思ったが、とりあえず最後まで聞くことにする。


「彼女は昔から数学がずば抜けて優秀であり、公爵という地位にありながら、学会に所属し、数学の第一線を切り拓き続けています。ダルネア様が発見した新しい定理は累計で5つもあるほどです」


「へえ、優秀な方なんですね」


私は合いの手をいれる。


新しい定理を発見した……といっても、そこまで高度なものではないだろう。


――――この異世界では、数学は発展していない。


純粋に研究が進んでいないということもある。


が、そもそも、あまり重視されていない学問なのだ。


理由は、魔法があるためである。


魔法とは抽象的で、観念的なもの。


数学のような理系学問とは、相性が合わないことが多いのだ。


(まあ、それ以前に、読み書きと四則演算ができたらエリート扱いされるようなレベルなんだよね)


学問水準がまだまだ未発展な異世界。


数学でいえば、因数分解や一次関数が解ければ、それだけで第一線の数学者になれるぐらいだ。


ユレイラさんが言った。


「そんなダルネア様は、新しく、難解な数学の問題を求めています」


ここでシャーロット殿下が話を引き継いだ。


「以前に、ダルネア嬢に遺稿を譲渡してほしいと頼んだとき、こう言われましたの。『あたしが1時間以内に解けない数学の問題を持ってきたら、遺稿はタダでくれてやってもいい』と」


「つまり……数学の問題と、交換ということですか?」


「そういうことですわね」


ほう、なるほど。


面白い条件を突き出してきたものだ。


遺稿が欲しいなら、数学の難問を寄越せ……か。

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