第3章86話:ルシェス視点2


<ルシェス視点・続き>



ルシェスは一拍置いてから続ける。


「聞けば、彼女は錬金魔導師らしい。それでピンときたよ。シャーロットは、おそらくエリーヌを使ってドラル・サヴローヴェンの遺跡を攻略し、永世巫女になるつもりだろう」


「貴様との婚約を破棄するためにか。ずいぶんと嫌われたものだな」


イグーニドラシェルは小馬鹿にしたように笑う。


ルシェスは一瞬顔をしかめたが、すぐに真顔に戻して、言った。


「200年も解けなかった遺跡の術式を、エリーヌが解けるとは思えないが……しかし、僕の【予感】はそう告げていない。遺跡の術式は、おそらく解かれる。その前に排除せねば」


この世界の未来は、無数に枝分かれしている。


未来は常に不確定であり、己の意思や行動次第で変えることができる。


それは世界の管理者たる【大精霊】のお告げによって、明らかとなっていることだ。


ルシェスの【予感能力】は、枝分かれする未来において、高確率で起こり得る事象を予見するもの。


そして、予感した未来を、ルシェス自身の行動によって変えることもできる。


エリーヌがルシェスにとてつもない災厄をもたらすのだとしても、未然に排除し、その災厄を取り除くことも可能なのだ。


「だから始末してほしいという依頼か。ふむ……まあ、いいだろう。久々にアリスティと対峙するのも悪くない」


「じゃあ」


「ああ、引き受けてやる。ただし、全てが終わったときには、わかっているな?」


「もちろんだ。君を王族に迎え入れることを約束しよう」


そう。


イグーニドラシェルがルシェスと協力関係を築いている理由がソレだ。


彼女は、王族になりたいのである。


頂点の景色を見ることが、彼女の生きがいであり、ライフワークだからだ。


しかしイグーニドラシェルは平民出身。


英雄としてどれだけ結果を残そうとも、王室に入ることはできない。


貴族になるにしても、せいぜい伯爵位程度を叙勲するに留まる。


それは王国法で決まっていることだ。


彼女がルシェスと協力関係を結んでいるのは、そのルールを変えるため。


ルシェスがシャーロットと結婚を果たし、王配として権勢を振るうようになれば、王国法などいくらでも操作が可能だからである。


ルシェスは言った。


「君が味方になってくれるなら、もはや成功は確約されたも同然だ。安心したよ、ははは」


ルシェスは、エリーヌたちをどう始末したものかと悩んでいた。


なぜなら、エリーヌ側にアリスティ・フレアローズがいるからだ。


アリスティは【選ばれし六傑】の一人。


一筋縄ではいかない。


しかし、同じ【選ばれし六傑】であり英雄であるイグーニドラシェルが味方についてくれるなら、怖いものはなかった。


六傑でいえばイグーニドラシェルは序列3位、アリスティは序列5位。


イグーニドラシェルのほうが格上なのだ。


簡単には殺せないかもしれないが、負けることはないだろう。


「一応、これが前払いの報酬だ。確認してくれ」


ルシェスはアイテムバッグから、金銭袋を取り出し、差し出した。


そこには10億ディリンが入っている。


確認したイグーニードラシェルも、さすがに驚いた。


「……ふむ。相当多いな。よくこれだけの大金を、気軽に支払えるものだ」


「実は、二年ほど前にはじめた麻薬売買が軌道に乗っているんだ。おっと、これは他言無用にしてもらいたいが」


ルシェスは複数の闇商売に手を染めている。


中でも麻薬売買は、莫大な利益を上げていた。


もちろんそれは、他人の人生を壊しながら稼いでいる商売であることは、言うまでもないが。


「他言無用と言うなら、最初から話すな。……で、依頼の決行はいつだ?」


ルシェスは答える。


「2~3日後だ。王都を離れるであろうシャーロットを追跡し、二つ隣の領地にて襲撃を決行してくれ」


「二つ隣の領地か。王都の近くで殺ったらダメなのか?」


「ダメだな。女王領と、その近郊の領地は、監視の目も強いから事を起こすには向かない。逆に、女王領から離れた領地なら、いろいろと工作もしやすいんだ。いざとなれば、その地の領主を買収すればいいだけだからな」


「なるほどな。わかった。なら王女を追跡するための馬を用意しておけ」


「ああ」


話は終わり、解散したあと、二人はそれぞれの準備に取り掛かる。


しかし――――ルシェスたちの追跡は失敗することになる。


なぜなら、エリーヌたちにはキャンピングカーがあるからだ。


実は、馬の速度は自動車と大差ないのだが……馬の体力は有限で、1時間程度も走ればバテる。


延々と走り続けられるキャンピングカーを、追跡できるはずもないのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る