第3章83話:ルシェスの印象


私は、シャーロット殿下の言葉に、目を細めた。


殿下が、本当は急ぎの用事ではないことは知っている。


王城の宝物殿に、物を取りに行くだけなのだから。


では何故殿下がそんな嘘をついたかというと、さっさとこの会話を終わらせたいからだろう。


彼女は婚約破棄したいと願っている。


端から見ているぶんには、そんなに険悪そうな関係には見えないのだが……


シャーロット殿下はやはり、ルシェス様のことを、好ましく思っていないのだ。


「いや、ごめん。君のことを見かけたから、声をかけただけなんだ。邪魔してしまったようだね。僕はこれで失礼するよ」


「ええ。また時間があるときに、ゆっくりお話をしましょう」


「そうだね。それじゃあ」


ルシェス様はそう言って、去っていった。


彼の背中が遠ざかってから、私は言った。


「そんなに悪い人には見えませんでしたね。殿下は、彼のことを嫌っているのですか?」


「……」


シャーロット殿下が一時、押し黙る。


ややあってから、答えた。


「あの男は、大きな闇を抱えていますの」


「ふむ……」


「あなたも、元貴族ならばおわかりでしょう? 表面的には綺麗に取り繕っていても、腹の底では、カネや権力にしか興味のない人間がいくらでもいることを」


「……そうですね」


私は否定しなかった。


あのルシェス・ケルフォードという男の第一印象は、悪くない。


ただ、だからといって善良であると断定するのは、早計だろう。


上流階級の人間は、善人を装うのが上手いし、腹芸も得意だ。


とんでもないクズであるという可能性も十分にある。


シャーロット殿下の反応を見る限り、ルシェス様は、きっと善人ではないんだろうな。


「まあ、ルシェスのことはいいですわ。気を取り直して、王城に向かいましょうか」


「はい」


殿下たちの先導で、私たちは王都を歩き出した。


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