第3章82話:ルシェス


リズニス王都。


城壁に囲まれた、人口10万人以上の大都市。


中央に王城があり、その周囲に城下町が広がっている。


赤い屋根の家や、白壁の美しい居館が立ち並ぶ、立派な街。


王国の繁栄を象徴するような都市である。


しかも、パレード中ということもあって、本日はさらにも増して活気に包まれているようだ。


あちこちに露店が立ち並び、買い物客であふれ……


立ち並ぶ民家やアパートの窓から、ばらまかれる花びらがひらひらと大通りを舞っていた。


パレードの主役である英雄を乗せた台車が、大通りのはるか向こうを走っているようだ。


シャーロット殿下は、私たちに尋ねてきた。


「お二人は、わが国の英雄を見ていきたいですか?」


私は即答する。


「いいえ。別に」


祭りは嫌いではないけど、英雄を眺めたいかと言われたら、興味はない。


シャーロット殿下は苦笑して、言った。


「それでは、わたくしは王城の宝物殿に向かいますわ。お二人は……そうですね。適当に時間を潰していてくださいまし」


「んー、途中まで一緒に行きませんか。素材屋など、気になる店を見つけたら、そのときに別れましょう」


「わかりましたわ」


殿下は答え、歩き出そうとする。


そのときだった。


「やあ、シャーロット」


そう声をかけてくる者がいた。


男性である。


異世界風スーツに身を包んだ格好をしている。


インテリっぽさを感じさせる静かな顔立ちをしていた。


王女殿下を、シャーロット……と呼び捨てにするぐらいだから、王族に連なる身分なのは間違いない。


男は言った。


「十数日、遠出をしていたそうだね。いったい何をしていたんだい?」


「少し所用があって出かけていただけですわ」


「そうか。僕に断りもなく出かけたから心配したよ……で、そちらの二人は?」


男が、私たちに水を向けてきた。


シャーロット殿下が答える。


「彼女は観光にいらっしゃった他国の錬金魔導師ですわ。名はエリーヌ、そちらはお付きのアリスティです」


「ほう……錬金魔導師」


男の目が一瞬、細められた気がした。


シャーロット殿下が言う。


「エリーヌさん、こちらはわたくしの婚約者、ルシェスですわ」


なっ……


この人が婚約者なのか!?


私は驚いて一瞬固まってしまったが、気を取り直して挨拶をした。


「エリーヌ・ブランジェと申します。まさかシャーロット殿下の婚約者にお会いできるとは、光栄の至りに存じます」


「ルシェス・ケルフォードだ。あまり仰々しい挨拶は好まない。ラクにしてくれると嬉しいな」


「そういうわけには……ですが、お心遣い感謝いたします」


私は不快感を与えないように、当たりざわりのない答えを返した。


ルシェス様は感心したように微笑んだ。


「錬金魔導師だそうだが、とても礼儀正しい方だ。感心したよ。さすがはシャーロットの知り合いだね」


「ええ。彼女はとても礼儀のよく出来た方ですわ。……ところでルシェス。わたくし、急ぎの用があるのですが」


「ん、そうだったのかい?」


「はい。ですので、用事があるなら手短にお願いしたいのですが」

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