第3章79話:シャーロット視点2・想い
<シャーロット視点>
エリーヌが壁のスイッチを押す。
すると、天井に張り付いていたベッドが、肩ぐらいの高さまで下がってくる。
もう一度エリーヌがスイッチを押す。
すろと今度はベッドが上昇し、天井へとふたたびへばりついた。
「プルダウンベッドと言います。このように、使わないときは天井へ張り付けておくことで、スペースをとりません」
(いや、さすがにおかしいですわ!?)
シャーロットは心の中でのたまった。
こんなベッドは見たことがないし、どんな発想をしていれば、天井にベッドを取り付けようなんて考えが出てくるのか?
あと、なぜ壁のスイッチを押したらベッドが動く?
伝説とされる遠隔魔法の類か?
理解しがたい技術が使われていることに、シャーロットは頭がくらくらしそうだった。
エリーヌはもう一度スイッチを押して、ベッドを引き下げる。
「ベッドに昇るときは、折りたたみ式ラダーを使います。ここ―――ベッド底部にラダーを取り付けており、普段は折りたたんでいるのですが、開くと、階段ができあがります。このラダーを昇って、ベッドに上がってください」
実際にエリーヌはラダーを開いてみせた。
階段を折りたたむ……という大胆なアイディアに、ふたたび、シャーロットは驚嘆する。
エリーヌは言った。
「今夜はこちらをお使いになって、お休みください」
「え、ええ……」
シャーロットは答える。
そのあと、エリーヌはお手洗いのためにトイレへと向かった。
彼女がトイレの中に入っていったのを見計らって、ユレイラが声をかけてきた。
「……想像を絶する技術力ですね。エリーヌ殿は、本当に何者なのでしょうか?」
「わかりませんわ。ただ……丁重に扱うべき御仁であることは、間違いありませんわね」
この超越した技術力。
メリスバトンの座ですら、エリーヌにとっては安いかもしれない。
どうやってエリーヌを取り込むべきか?
彼女という逸材を他国に奪われないためにはどうすればいいか?
そんな計算が頭の中で巡る。
が、それ以上に、シャーロットの内に沸き起こる感情があった。
(本当に、なんて素晴らしいのでしょう……)
エリーヌと会って、まだ二日。
そのあいだに目にしたもの、
食べた料理、
聞いた音楽。
全てが常識を越えていた。
王族として生まれ、さまざまなものを見聞きしてきたシャーロットでさえ、鮮烈に映るほどの経験だった。
「……殿下?」
シャーロットは静かにキャンピングカーを下りる。
そして、夜のとばりが降り始めた草原を眺める。
「錬金魔法……」
ぽつりとつぶやく。
シャーロットの胸には、ただ、純粋な感動が広がっていた。
エリーヌの錬金魔法が魅せてくれる、奇跡のような技術の数々。
そこには、無限の可能性が広がっていた。
先刻、シャーロットはキャンピングカーでの体験を「異世界に迷い込んだよう」と評したが……それを大げさな表現だとは思わない。
エリーヌの錬金魔法が生み出す、キャンピングカーという小さな箱の中には、間違いなく、新しい世界が広がっているのだから。
それに魅了されない者がいるだろうか?
(もし、永世巫女になることができて、王城の雑事にとらわれなくなったら……錬金魔法を志してみるのもいいかもしれませんわね)
シャーロットは、第一王女。
生まれたときから、いずれ女王にならなければならない身分だった。
だが永世巫女になり、世継ぎを作らないことを宣言すれば、王位継承権は剥奪されるかもしれない。
もちろん、それでも王族として最低限の仕事はするつもりだが……
自由な時間は、たくさん出来る。
ならば、錬金魔法を探究してみてもいいのではないか?
そう思うほど少しずつ、シャーロットは錬金魔法に惹かれはじめていた。
(まあ、全ては、エリーヌさんが宝物庫を開けられるかにかかっていますけれどね……)
しかし、昨日よりも確信があった。
エリーヌはきっと、200年誰も解けなかったドラル・サヴローヴェンの術式を突破する。
彼女なら、できる。
シャーロットは、そんな期待を胸に抱きながら、キャンピングカーへと戻っていった。
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