第3章78話:シャーロット視点・プルダウンベッド



―――3分後。


錬成作業を終了する。


完成したのは、プルダウンベッドである。


プルダウンベッドとは引き下げ式のベッドのこと。


普段は車内の天井に取り付けておき、必要時、天井から引き下げて使用するベッドだ。




このプルダウンベッドを、私はリビングの天井へと設置した。


場所はキッチンの手前あたりの天井。


天窓をさえぎらず、ベッドを引き下げたときにトイレ扉の開閉を邪魔しないような、絶妙な位置だ。


ベッドをプルダウンしたいときは、壁のスイッチを押す。


試しに押してみると、ズズズとベッドがゆっくり下がってきた。


このキャンピングカーは高さ2.5メートルある。


そのうち、プルダウンベッドは1.5メートルあたりの高さまでずり下がってくる仕様だ。


「うん、いい感じですね」


ベッドの幅は、二人ぐらいならぎりぎり寝られるぐらい。


寝返りを打ったとき、うっかりベッドから転落してしまったら危険だ。


ゆえに落下防止のレールを、ベッドの両端にこしらえている。


最後にシーツについて。


シーツは厚みこそあまりないが、柔らかい質感のものではある。


上質とまではいかないが、それなりの快適性はあるはずだ。




<シャーロット視点>


シャーロットは、エリーヌがベッドを製作する姿を、一部始終、眺めていた。


はじめてエリーヌのアイテム錬成の様子を観察したシャーロットは、ただひたすら驚愕した。


(これは……異常ですわ……)


シャーロットは錬金魔法の適性はないが、プロ級の知識がある。


だからこそエリーヌの異質さに、驚くしかなかった。


エリーヌの錬成作業は、全てにおいて常軌を逸していた。


――――使われていた素材は、どれも見たことがあるものばかりだ。


ところが、素材の合成、変形、加工などの処理は、シャーロットでさえ半分も理解できなかった。


なぜ、その素材と素材を組み合わせたのかわからない……そんなことが、何度も起こった。


しかし間違いなく、新しい素材や部品が生み出され、ベッドが完成していくのだ。


それに……エリーヌの速すぎる錬成速度。


錬成スピードは、錬金魔法を理解すればするほど速くなる。


錬成が速いということは、錬金魔法について深く理解しているということだ。


だが、エリーヌの錬成速度というのは、もはや常識を越えており、異次元のレベルに達していた。


いったいどれほど錬金魔法への理解が深ければ、ここまでのスピードを実現できるのか?


目にも留まらぬ速さで完成品が仕上がっていくさまを見て、シャーロットは驚きとともに、畏怖すら覚えた。


そして、わずか3分で出来上がった代物―――


プルダウンベッドなる寝台は、かつて誰も見たことがない逸品だった。


エリーヌは言ってくる。


「ベッドが完成しました。使い方を説明しますね」

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