第3章75話:四人の語らい


シャーロット殿下は言う。


「本当にこのキャンピングカーは未知の宝庫ですわね。まるで異世界に迷い込んだようですわ!」


まあ……別世界の技術だからね。


ユレイラさんは言った。


「技術もそうですが、演奏も素晴らしいですね。澄んだ音と、淀みのない旋律。聞き惚れてしまいます」


「ですよね! これは――――あ、申し訳ありません」


そのときアリスティが口を開きかけたが、すぐに謝罪して押し黙った。


使用人である自分が、勝手に主の会話に混ざってはいけない……と判断したからだろう。


それを察した殿下は、告げる。


「構いませんわ。続けてください」


「いえ、しかし」


「せっかく四人いるのですし、会話に混ざってきてくださったほうが楽しいですわ。どうぞ、気兼ねなく話してください」


アリスティは私のほうを見た。


私は会話を許可するサインとして、静かに頷く。


アリスティは言った。


「では、お言葉に甘えて……実は、この演奏をしたのは、エリーヌお嬢様なんですよ」


ユレイラさんは言った。


「ほう。これをエリーヌ殿が……ブランジェ家は軍家だと聞いておりましたが、音楽の教育も豊かなんですね」


それに対し、アリスティが答える。


「いいえ。この演奏はブランジェ家とは無関係なんです。お嬢様が独自に開発したピアノという楽器を使っておりまして」


「ピアノ……なるほど。どうりで聞き覚えのない音色だと思いましたわ」


シャーロット殿下は納得する。


アリスティが言った。


「お嬢様は、ピアノの演奏もさることながら、神殿の聖歌隊にも認められるほどの歌声をお持ちです。特に弾き語りは、それはそれは素晴らしく……」


「弾き語り、とは何ですの?」


「弾き語りとは、ピアノを演奏しながら歌を歌う……お嬢様が独自に開発したスタイルにございます」


まあ、私が開発したわけじゃないけどね。


ユレイラさんが言う。


「ハープに乗せて詩を詠む吟遊詩人のようなものでしょうか。とても興味深いですね」


「お嬢様の弾き語りは、涙が出るほど素晴らしいんですよ。是非今度、聴いてみてください! きっと気に入られると思いますよ!」


アリスティの言葉に熱が入ってきた。


アリスティは、本当に弾き語りを気に入っているからなぁ……。


会話を許可したものの、このまましゃべらせると暴走するかもしれない。


話題を変えることにしよう。


「そういえば、シャーロット殿下が王女であることは知りましたが、ユレイラさんはいったいどのようなご身分の方なのでしょう?」


「……そういえば、話していませんでしたね。私は、王女殿下直属の騎士。近衛隊長でございます」


なるほど……


近衛隊長か。


ずっと王女にくっついている騎士なのだから、妥当なところだろう。


同じ騎士爵を持つ騎士の中でも、近衛騎士は、下級貴族級の発言力があるとされる。


その隊長クラスとなると、侯爵や公爵に準ずる地位があると見ていい。


私は言った。


「察してはいましたが、やはり身分が相当上ですね。今後はユレイラ様、とお呼びしたほうがよろしいでしょうか?」


「いえ。さしあたってエリーヌ殿は、殿下の賓客ということになるでしょうから、呼称については今まで通りで構いません。公の場でさえ気を遣っていただければ」


「わかりました。では公ではユレイラ様、私的な場においてはユレイラさんとお呼びしますね」


「それで構いません」


私たちは茶菓子を食べ、音楽を聴きながら、静かに語らいを楽しむ。




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