第3章74話:音楽を流す


ユレイラさんが言う。


「しかし、こんなに速いと、護衛隊の馬車を置き去りにしてしまいますね。一言、連絡をしておいたほうがよろしいのでは?」


「そうですわね。申し訳ありませんが、エリーヌさん。一度キャンピングカーを……」


「はい。わかりました」


ゴーレムに指示を出して停車してもらう。


殿下たちが下車する。


ちょうど、後ろから必死で追いかけてくる女隊長たちの姿があった。


ユレイラさんが女隊長と話をする。


ややあって、キャンピングカーに戻ってきた。


「先に行くことを伝えておきましたわ。隣の領地にある【アランベイの街】で合流ということで」


私は言う。


「アランベイですか。道がわからないので、案内していただいてもよろしいですか?」


するとユレイラさんが答えた。


「地図を持っているので、どうぞ参考にしてください」


アイテムバッグから地図を差し出してくる。


それを私が受け取り、ゴーレムに指示を出しにいった。





さて、走行再開。


キャンピングカーが街道の上を快走していく。


私と殿下たち三人がリビングの椅子に座る。


アリスティがキッチンで茶の用意をしてから、言った。


「茶菓子でございます」


私はお礼を述べる。


「ありがとうございます、アリスティ。ついでにクラシックを流してもらってもいいですか?」


「かしこまりました」


「……クラシック?」


シャーロット殿下が首をかしげた。


アリスティは壁のコントロールパネルを操作する。


すると、音楽が流れ始めた。


「なっ――――」


殿下とユレイラさんが絶句していた。


ピアノの音色が車内を満たす。


シャーロット殿下は言った。


「あ……えっ……? なぜ音楽が流れて……? キャンピングカーに、楽団を乗せてらっしゃるんですの!?」


「いえ。これは録音ですよ」


「録音……?」


「音を記録し、このように、いつでも再生することができる技術です」


ユレイラさんが確認するように聞いてくる。


「それはつまり、過去の演奏を保存して、流していると?」


「はい。その通りです」


私が肯定すると、殿下たちはふたたび絶句した。


生まれながらに録音技術が存在した前世と違い、異世界人は、やはり録音という技術に相当な衝撃を覚えるようだ。




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