第3章73話:移動開始



20分ほど歩いて、シャーロット殿下の野営地に到着する。


そこには、殿下の護衛をつかさどる10名ほどの兵士がいた。


ちょうど、野営のテントを片付けたところのようだ。


私は、女隊長と軽く挨拶を済ませた。


その後、隊列を組んで森を歩き出す。


シャーロット殿下は隊中央。


私とアリスティは、女隊長とともに最後尾を歩くことになった。


「……」


女隊長や、他の兵士たちは無言である。


余計な私語は慎むようにしているようだ。


まあ、そりゃそうか。


王族の護衛なんて、和気あいあいとするものではないしね。


なお、私たちは私語を禁じられてはいない。


だからアリスティと適度に雑談をしながら、森を歩き続けた。


休憩を挟みつつ、1日歩き、日が沈んだころに野営をする。


テントを一つ与えられて休むことになる。


――――翌日。


ふたたび隊列をなして歩き出した。


やがて、森を抜ける。


森の出口には、7名ほどの兵士が、馬車とともに立っていた。


シャーロット殿下が隊中央から離れ、私たちのもとへとやってきた。


「森を出られましたわね。ここからは、どうぞキャンピングカーをお使いになってください」


「はい。それは助かります」


さっさと車の中へ入ってしまおう。


というわけで、私はキャンピングカーをアイテムバッグから取り出す。


キャンピングカーを見上げた兵士たちがどよめいた。


シャーロット殿下が私に言ってくる。


「あの、一つお願いしてもよろしいでしょうか?」


「ん、なんでしょう?」


「わたくしも、このキャンピングカーに乗って移動してみたいですわ」


うん。


まあ、そう言い出してくると思っていた。


別に断る理由はないので、私は答えた。


「構いませんよ。ただし、あまり人が多いと手狭になってしまうので、乗せるのは2人までということでよろしいですか?」


「ええ。ではわたくしとユレイラが乗りますわ」


シャーロット殿下が女隊長に、その旨を伝えた。


こうしてシャーロット殿下がキャンピングカーに同乗することになった。






殿下とユレイラさんが、車内のテーブルに座る。


私はゴーレムに命令を下した。


「それでは、発進してください」


ゴーレムは了解し、アクセルを踏み始める。


キャンピングカーが動き始めた。


私はリビングのテーブルのそばに、じっと立つ。


ふむ……


揺れはほとんど解消されたようだ。


現在、このキャンピングカーは、並みの自動車ほどの揺れさえも起こらない。


錬金魔法による揺れ対策は上手くいったようだ。


「す、すごいですわね」


そのときシャーロット殿下は感激したように言った。


「車窓の景色が、あっという間に後ろへ流れていきますわ。このキャンピングカーは、いったいどれほどの速度で走っているんですの?」


私は答える。


「馬車よりは数倍速いですね。でも、これでも抑えたほうですよ。全速力で走ると危険なので」


「なるほど……本当に素晴らしい馬車ですわね。この速さで、しかも快適でもあるのですから。この椅子もフカフカで、とても心地いいですわ!」


殿下がキャンピングカーを賞賛する。


クッション性の座席を、殿下はいたく気に入ったようで、1つ購入したい……などと言ってくるほどだった。


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