第2章68話:依頼を引き受ける


――――まず一つ目に、本当に術式を解けるのかという問題。


私は科学には理解はある。


しかし錬金魔法については勉強中だ。


そこまで高度なものを解読できる自信はない。


まったく手も足も出ず、依頼失敗ということも有り得るだろう。


――――そして二つ目に、仮に術式が解けてしまった場合。


その場合、シャーロット殿下が永世巫女となり、婚約が破談にされてしまうわけだが……


私は、王女の婚約者一派に恨まれてしまわないだろうか?


王族の婚姻というのは、当人たちの問題で済む話ではない。


非常に多くの派閥、利権が絡んだうえで成り立っているものだ。


それを、余所者に過ぎない私がおじゃんにしてしまうというのは、ちょっとね……


ただ。


私は、思う。


(偉大な錬金魔導師の宝物庫……めちゃくちゃ気になる!)


同じ錬金魔導師として、胸が高鳴ってしまう。


ドラル・サヴローヴェンといえば、錬金魔法の史書にも名を残す偉人である。


錬金魔法の基礎を作り上げたとされる世紀の大天才。


書物でしか名が知られない存在ではあるが、実際に200年も解けない術式を施したとなると、その実力は伊達ではなかったということだろう。


そんな男が残した宝物庫には、いったい何が入っているのだろう?


気になる。


好奇心で、心が躍る。


その宝物庫には、私には考えつかなかったアイディアが眠っていたりするのではないか?


ああ、


知りたい!!


そう思ってしまったら、もう止まれない。


知の探求者として、ここは尻込みすることはできなかった。


「依頼についてはわかりました。引き受けさせていただきましょう!」


「本当ですの!?」


「はい。私に解けるかはわかりませんが、最善を尽くさせていただきます」


シャーロット殿下の目が輝いた。


「有難うございます! 依頼達成時の報酬についてですが、わたくしから褒賞を与え、さらに宝物庫に眠る遺物を山分けする、というものでいかがでしょうか?」


「それで構いません」


「わかりましたわ。あなたほどの錬金魔導師ならば、きっと解くことができます!! よろしくお願いしますわね!」


私はうなずいた。


こうして私は、王女の婚約破棄に協力することになったのであった。





話が終わったあと、シャーロット殿下は言った。


「わたくしたちは、いったん、野営の馬車に戻りますわね」


「ああ、野営してらっしゃるんですね。わかりました。途中まで送りましょうか?」


「ユレイラがいるので大丈夫ですわ。そもそも野営の場所は、すぐそこですもの」


そう言って、キャンピングカーを下りる殿下とユレイラさん。


下りたあとで、こちらを振り返って述べた。


「それでは、本日は楽しい時間を過ごさせていただき、ありがとうございました。また明日の朝、こちらに参りますので、どうかここで待機していただけると幸いですわ」


「ええ。お待ちしていますね」


二人と別れる。


私はお茶を入れて、リビングの椅子に座った。


すると正面に座ったアリスティが尋ねてきた。


「依頼を引き受けてよかったのですか?」


「はい。まあ、いろいろ問題がある話だというのは、承知の上です。リズニス王家の婚姻事情に首を突っ込むわけですし」


「そうですか。お嬢様のことですから、深い思慮があってのことだと思います。ならば、私はお嬢様についていくだけです」


いや……アリスティには悪いが、そこまで深い考えがあったわけではない。


宝物庫を見てみたいという好奇心が9割だ。


ただ、それを正直に言ったら叱られそうだから、黙っておこう。


「それにしても、本日のバーベキューは、とても楽しかったですね」


アリスティが穏やかな微笑を浮かべながら言った。


私は応じる。


「楽しんでもらえたようで何よりです。また機会があれば、やりたいですね」


「次にやるときは、私が肉や野菜を焼きますね」


「はい。そのときはお願いします」


私たちはしばらくお茶を楽しんだあと。


お風呂に入って、就寝した。





第2章 湖のスローライフ 完


次回より第3章へ

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