第2章67話:永世巫女


うん。


まあ、貴族はみんな思ってるよね。


なんなら男性貴族も、好きでもない女となんて結婚したくないと思っているだろう。


しかし当然、貴族は政略結婚が常だ。


恋愛結婚などそうそう成立することはない。


会う前から婚約が決まったり……


結婚式の日に初めて顔合わせをする、なんてこともあるぐらいだ。


(あ……そういえば私、政略結婚からも逃げられたのか)


エリーヌは顔も知らない、どこぞのなにがし氏と結婚させられる予定だったけど……


国外追放だし、破談になった。


もしかすると貴族って、国から追放されたほうが気ままに生きられるんじゃないだろうか?


「それで依頼についてですが、あなたに、婚約を破談にする手伝いをしてもらいたいのですわ」


「……えっと、婚約を破棄したいというお気持ちはわかるのですが、私に何をせよと仰るのでしょう? 錬金魔法と関係ない話ですよね?」


「いいえ。実は、大いに関係があるのです」


シャーロット殿下は言い切った。


全くピンと来ない話であったが、とりあえず続きの説明を待つことにした。


シャーロット殿下は言う。


「一般的に、どのような国でも、王族が結婚から逃れることはできません。世継ぎを残すことは、王子であれ王女であれ、逃れられぬ義務ですわ。しかし、わが国には一つだけそれを回避する方法があります」


「そうなのですか?」


「はい。その方法とは【永世巫女】になることです」


「永世巫女?」


「永世巫女とは、偉大なる功績を残した貴婦人に与えられる称号ですわ。その称号を得ることができれば、永遠に独身を貫いても許されることになるのです。いえ、むしろ独身以外は許されなくなる称号ですわ」


ちなみに男性貴族の場合は、永世巫女ではなく、永世太子と呼ばれるそうだ。


(リズニス王国にはそんな称号が存在するんだね)


ランヴェル帝国には、こういう逃げ道みたいな制度は存在しない。


むしろ、優秀であればこそ、積極的に子孫を残すべしと言われそうだ。


「永世巫女になるために必要な功績は、どれも獲得が困難なものですわ。しかしその中で、わたくしは、錬金魔法に注目しました」


ここで錬金魔法が出てくるのか。


どんな話なのかと、私は傾聴する。


シャーロット殿下が説明する。


「かつてリズニス王国に存在したとされる偉大な錬金魔導師、ドラル・サヴローヴェンが残した遺跡の宝物庫。その入り口の扉には、錬金魔法による非常に高度な術式が施されています。この術式を解き、宝物庫の扉を開けることができれば、十分な功績として認められ、永世巫女の称号が得られるのです」


「ん……扉を開けるだけでよいのですか?」


「はい。ですが、これまで200年もの間、どのような才能にも解くことができなかった術式です。高度な難業であるからこそ、それを解いたとき、大いなる功績として認定してもらえるということですわ」


ふむ……


数学のミレニアム問題みたいなものかな?


フェルマーの最終定理とか、300年以上、誰も解くことができなかったとされているが、そういうのに近い話かもしれない。


「ちなみに、自分自身で術式を解く必要はありませんの。誰かに代行させてもいいのですわ。その場合、術式を解ける人材を見つけ出したことを評価され、永世巫女の称号が得られます」


「つまり、殿下の代わりとして、私にその術式を解け……というのが、依頼内容ということですか」


「おっしゃる通りですわ」


なるほどね。


話はわかった。


わかったけど……いろいろ問題がありそうだ。


それを頭の中で整理してみる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る