第2章64話:王女
「勧誘、ですか……」
「ええ。国家最高の錬金魔導師の座を用意いたしますわ。それを命ずる権限が、わたくしにはありますの」
そして。
シャーロットさんは、ついに自身の正体を打ち明けた。
「もうお気づきでしょうが……わたくしは一介の貴族ではありませんし、もちろん冒険者などではありません。わたくしの名は、シャーロット・ディ・バルタ・ド・リズニス。リズニス王国の第一王女ですわ」
うわぁ……。
ワンチャン公爵令嬢も有り得るかと思ったけど……
王女さまだったか。
しかもリズニス王国って女王制だし、王家が女系なんだよね……。
それってつまり、このひとは、次期女王の筆頭候補ってことで。
なんでこんな人が森を歩いてんねん?
関西弁になってまうやん?
……なんて言ってる暇はない。
私は拝礼のために膝をつく。
そばで立っていたアリスティもひざまずいた。
私は述べる。
「やんごとなき御方であるとは認識しておりましたが……まさか姫殿下とは。さきほどは数々のご無礼をいたしました。お許しください」
まあ、庶民基準でいえば、さして無礼なことはしてないが……
貴族の場合は、いろいろと勝手が違う。
殿下と同じテーブルでご飯を食べたこと。
殿下に「エリーヌ」という名だけを告げて、苗字を教えなかったこと。
殿下の許可なく、目を見て話したこと。
……などなど、まるで王族と対等であるかのように振舞う行為は、全て重罪である。
ただ、本当に処罰されるわけではない。
殿下と知らずにそうしていたのであれば、謝罪さえすれば、許しを与えるのが王族のならいだ。
これはランヴェル帝国だろうがリズニス王国だろうが、どこでも変わらない。
シャーロットさん――――殿下は、述べた。
「無礼だなんて。あまりよそよそしくされるのは、嬉しくありませんわ。さきほどのように振舞っていただければ」
「……さすがにそういうわけには」
「いいえ。気軽に接していただけたほうが、こちらも気楽ですもの。さ、どうか立ち上がって、先刻と同じように接してくださいまし」
「……わかりました。では呼び方だけ、シャーロット殿下と改めさせていただきます」
「それで構いませんわ」
私とアリスティは立ち上がった。
シャーロット殿下はふたたび尋ねた。
「それで……さきほどの問いについての返答を聞かせていただいてもよろしいでしょうか。わが国を代表する錬金魔導師―――メリスバトン(宮廷魔導師・錬金魔法部・第一席)になっていただけませんか?」
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