第2章63話:キャンピングカーの値段


「この馬車にはたくさん扉がありますが、もしかして個室があるんですの?」


私はうなずき、答えた。


「はい。そちらの扉がトイレで、そっちがお風呂ですね」


「……へ?」


「それで、奥のほうは寝室です。あっちは馬車の運転席で―――――」


「ちょ、ちょっと待ってくださいまし! トイレ!? お風呂!? いったい何をおっしゃっておられますの!?」


シャーロットさんが困惑を隠せないとばかりに尋ねてくる。


私は答える。


「実は、この馬車――――キャンピングカーは、車内で生活できるように作ったものなんです。ですから、浴室、キッチン、トイレ、寝室など、人が生活するために必要な設備は、全て備わっています」


「そっ、そんな馬車があるわけありませんわ!? 馬車にお風呂やトイレまで設けるなんて……そんなこと」


「実際に見てもらえればわかりますよ」


私は浴室の扉を開く。


それをシャーロットさんたちに見せた。


彼女たちは、洗練された浴室の内装に驚嘆した。


「ゆ、湯舟に張る水はどのように貯め……いえ、そばに湖があるのですから、水はいくらでも確保できますわね……」


シャーロットさんは驚きつつ、納得する。


そのあと、トイレについても解説した。


使い方の説明をしたあと、実際に使ってみたいとシャーロットさんが言い出したので、許可した。


そしてトイレから出てきたシャーロットさんは感激していた。


言うまでもないことだが、異世界の馬車におけるトイレ事情とは、劣悪なものである。


それに対し、快適かつ清潔なトイレが完備されたキャンピングカーは、夢のような技術に思えたようだ。


リビングに戻ったシャーロットさんは、テーブルのそばに立って言った。


「この馬車、欲しいですわ!!」


シャーロットさんが昂奮したように言ってきた。


「キャンピングカーと言いましたわね!? これはまさしく馬車の新境地! わが国……いえ、大陸全土を見渡しても、これほど見事な馬車は存在しないでしょう! 是非買い取らせていただきたいです!」


まあ、そう来るよね。


最初からわかっていた。


だから私は用意していた答えを述べる。


「条件次第で、構いませんよ」


「条件? なんですの? お金なら、いくらでもお支払いいたしますわよ。この馬車になら、30億……いえ、50億ディリンを出しても構いませんわ!」


わお……


50億円の自動車かぁ。


人類史上、最高額がつけられた瞬間ではなかろうか。


というか、この人……50億なんて大金を右から左へと動かせるのか。


やはり最上級貴族のご令嬢であることは間違いないだろう。


「価格はのちほど相談としましょう。ただ、このキャンピングカーをそのまま譲るのではなく、新たに製作するという形になりますが」


「製作! そういえば、この馬車はあなたが自作したと仰っておられましたわね」


「はい。これは私が、錬金魔法を使って作ったものです」


シャーロットさんが深く感嘆したようなため息をつく。


「あなたは……天才ですわね。とても名のある錬金魔導師ではありませんの?」


「いえ。実は、あまり錬金魔法を他者に披露したことはなかったので、無名です」


「無名……」


シャーロットさんは、信じられないといった顔をする。


そのあと、ユレイラさんのほうを振り返った。


二人で何かを示し合わせたように、うなずきあう。


それからふたたびこちらを向いて、言った。


「エリーヌさん……あなたをわが国に勧誘させていただいてもよろしいでしょうか?」

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