第2章58話:同席
「いえ……1人で3000人の軍団と戦ったのは事実ですが、実際は、手前にいる200人ほどを倒したら、撤退していきました」
「ああ、なるほど……」
どういうことがあったのか、すぐに想像できた。
アリスティが1人で無双し、一方的に殺戮しまくったのだろう。
その結果、200人ほどが死んだ段階で、兵たちは戦意喪失し、退却を決意したというわけだ。
3000対1というのは、数の暴力で押しつぶせるように感じるが、敵がたった1人であっても、それが竜のごとき強さを持つ相手なら、誰だって戦いたくないと思うもの。
ただ結果としては、1人で3000人を退けたことになるから、いつの間にか尾ひれがつき、「全滅させた」という噂になって広まったのだろう。
ユレイラさんは言う。
「アリスティ・フレアローズは戦場を引退し、どこぞの貴族に仕えたと聞きました。確かランヴェル帝国の――――」
「ユレイラ」
シャーロットさんが言葉をさえぎるように言った。
「詮索は無用に致しましょう。わたくしは別に、この方々がどこの誰であるかなど、興味はありませんわ」
「……しかし」
「いいのですわ。わたくしたちは、そうですね……旅の途中で出会った冒険者です! 冒険者同士なのですから、互いの詮索はしないのですわ」
この場に冒険者と言えそうな者は一人もいないのだが、そういうことにしてくれるらしい。
シャーロットさんは続けて言った。
「そんなことよりも、さっきから美味しそうな匂いがただよって、お腹が空いてきましたの。よろしければわたくしも、この食事会に参加させていただけませんかしら? もちろんお礼はいたしますわ」
ん……。
予想していなかった申し出だ。
食事への同席か。
気乗りはしないけど、承諾するしかないかな。
相手は明らかに上級貴族。
どうして初対面の相手に、メシをくれてやらねばならんのだ……などと突っぱねてはいけない。
ここで拒否して怒らせたら、最悪、処罰されてもおかしくはないからだ。
「ええ。構いませんよ。では、こちらのテーブルへおかけください」
シャーロットさんがうなずいて、近づいてくる。
彼女が座ると、ユレイラさんはその斜め後ろに控えた。
私はトングを持って、食材を追加で焼き始めた。
シャーロットさんが聞いてきた。
「ところで、あちらにあるのはなんですの? 魔物ではないようですが」
彼女が示唆したのはキャンピングカーであった。
どう答えたものかと悩みつつ、私は返答する。
「あれは……新型の馬車ですね。私が錬金魔法で開発したものです」
「まあっ、あなたは錬金魔導師なんですのね? 新型の馬車と聞くと、とても興味がありますわ。中を見させてもらっても?」
「構いませんよ」
私は肯定した。
キャンピングカーの存在を隠すつもりはなかった。
こそこそしていても不審がられるだけだしね。
シャーロットさんは言う。
「では食事の後にお願いしますわね。あ、でも、じきに夜になると、中が見えなくなってしまうでしょうか」
「その点については大丈夫です。錬金魔法で開発した照明がありますので」
「照明も作れるんですのね? すごいですわ!」
「いえ、それほどでもありません。あ、野菜はこれぐらいでいいですね。そちらのタレをつけて、どうぞ召し上がってください」
私は軽く焼いた野菜を紙皿に移して渡した。
シャーロットさんはフォークを持って、しげしげとタレに目を落とす。
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