第2章57話:シャーロットとユレイラ
女性たちは、一目見て、平民ではないとわかるいでたちであった。
私とアリスティのように、主従関係を結んでいるのだろうとすぐにわかった。
視界の左側に立つ女性は、騎士の姿をしている。
ポニーテールの蒼髪であり、黄色の瞳。
武をたしなんできた者ならばわかる、強者の気配をまとっていた。
きりっとした瞳をこちらへと向けている。
明らかに警戒をあらわにしていた。
対して、視界の右側に立つ女性は、高貴なドレス姿。
肩にかかるぐらいのボブカットヘアーであり、赤髪。
黄玉の色合いをした宝石のような瞳であった。
夕陽に、髪と瞳が美しくかがやく。
間違いなく、この女性は、私よりも「格上」である。
エリーヌ・ブランジェも一応貴族の生まれであるから、貴人としての風格はある。
しかしそれでも、彼女には遠く及ばない。
その女性は本物のノーブルであり、気品をまとっていた。
やんごとなき身分のご令嬢だろう。
侯爵、公爵……あるいは、それ以上も有り得る。
(ここは侯爵領ですし、侯爵令嬢かもしれませんね。でも、どうしてこんな森の奥に……?)
わからない。
ただ、まあ、粗相のないようにしておかなくてはいけない。
そう思い、軽く挨拶をしようと思った矢先、赤髪の令嬢が言ってきた。
「湖を前にしての食事とは……とても粋な催しをされておられるのですわね」
リズニス語である。
エリーヌ・ブランジェは英才教育にてリズニス語も習得している。
なので、私はあわててランヴェル語から、リズニス語へと脳の回路を切り替えた。
そうしてぎこちなく返事をする。
「えっと……その、はい」
令嬢はドレスの端をつまんで挨拶をする。
「申し訳ありません、お食事の邪魔をしてしまいましたわね。わたくしはシャーロットと申します。こちらは従者のユレイラですわ」
ユレイラと紹介された女騎士は、憮然としていたが、軽く会釈だけは行った。
名乗られた以上、名乗り返さないわけにはいかないので、私とアリスティは立ち上がる。
「私はエリーヌと申します。こちらはメイドのアリスティ」
アリスティが一礼をする。
シャーロットさんは尋ねてきた。
「とても美味しそうな匂いですわね。いったい何を召し上がっておられるんですの?」
そう口にしながらこちらに一歩近づこうとしたとき、ユレイラさんが止めた。
「シャーロット様。不用意に近づいてはなりません」
「ん……ユレイラ? そんなに警戒しなくても大丈夫でしょう? この方たちは、食事を摂っておられただけですわよ」
「それはそうだとは思いますが……実は、そちらのメイドに、覚えがあります」
……!
私はびくっとする。
ユレイラさんがアリスティを睨みながら言った。
「アリスティ・フレアローズ。かなり名の知れた軍人メイドですよ」
「あら、有名人なんですの?」
シャーロットさんが尋ねると、ユレイラさんが答えた。
「はい。戦場で会っても決して戦うな―――そう伝えられる戦士は6名ほどおりますが、そのうちの一人が彼女です。実際に顔を見たことがあるので、間違いありません」
なるほど。
ユレイラさんは身なりからして騎士だろうから、戦場経験もあろう。
ならばアリスティのことを知っていてもおかしくはない。
「素手の一撃で城門を破壊する、驚異的な打撃力を持つことから、【歩く攻城兵器】とも呼ばれた武人。たった一人で3000人の兵士を全滅させた、という逸話もあるほどです」
「まあっ、とてもお強いんですのね!」
シャーロットさんがなぜかはしゃいでいた。
というか、今の情報、初耳だ。
私はアリスティに確認する。
「本当に1人で3000人を全滅させたんですか?」
するとアリスティは困ったような顔をして、次のように答えた。
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