第2章56話:ホイル焼き



私は手元にある肉を食べ終わってから言った。


「さてさて……そろそろ大本命といきましょうか」


「……?」


アリスティが首をかしげる。


私はテーブルを立ち上がって、バーベキューコンロのもとに向かう。


トングを持って、網の上で焼かれているアルミホイルを掴んだ。


そう。


キノコのバター醤油焼きである。


そろそろ焼けただろうから、アルミホイルを紙皿へと上げていく。


アリスティが言った。


「それは確か、ホイル焼き……でしたか」


「はい。これぞまさに、今日のメインディッシュですよ!」


今回使ったのはフクナダケと呼ばれる、シイタケとそっくりの味わいがする異世界キノコ。


つまりシイタケのバター醤油焼きと同じであり、味はもう間違いない。


アルミホイルを開くと、香ばしすぎる匂いが空気中に広がった。


フクナダケが少ししなびて、アルミホイルの中に、キノコ汁とバター醤油の混じった液体がたまっている。


アリスティはうっとりする。


「とても良い香りですね。さっそく食べてみたいです!」


「はい。頂きましょうか」


アリスティはさっそく、フォークでフクナダケを突き刺す。


それをしげしげと眺めてから、口に運んだ。


咀嚼。


次の瞬間、彼女は破顔した。


見たこともない感激を湛えた顔であった。


「これは……言葉に尽くせない味ですね。私が人生で食べてきた中で、一番美味しい料理です」


大げさだ……


とは言い切れないか。


キノコのバター醤油焼きはたまらないよね。


そこらの肉より遥かに美味しいし。


私もひとくち食べる。


ああ……


素晴らしい。


やはりシイタケのバター醤油焼きだ。


しかもホイル焼きだからね。


味の締まりが違いすぎる。


(もう……今日死んでもいい気分だよ……)


私はそう思いながら、ぐいっとビールをあおった。


ぐびぐびと飲む。


はぁー!!


バター醤油焼きと、ビールの相性は最高だね!


いくらでも食べられるよ。


「フクナダケはまだまだあるので、どんどん焼いていきましょうか」


「はい!」


アリスティが元気に答える。


……と。


そのときだった。


アリスティが不意に後ろを振り向いた。


私はアリスティの視線を追う。


すると、そこに二人の女性がいた。


ざっ……と森の中から、彼女たちがこちらへと足を伸ばしてくる。

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