第2章52話:集大成



湖での生活を初めて24日が経つ。


そろそろ私のスローライフ生活が安定しはじめた。





まず朝。


日の出ごろ。


キャンピングカーの寝室で起床する。


「んー!」


ベッドのうえで上体を起こし、大きく伸びをする。


カーテンをあけて外の景色を見つめる。


今日は晴れのようだ。


天気を確認したあと、ベッドから起き上がる。


寝室を出ると、そのままキャンピングカーを下車して、湖の前で軽く体操をする。


「いっちにー、いっちにー」


朝の陽光と、湖のきらめきを眺めながらの体操。


自然の空気をいっぱいに吸って、眠気が少しずつ覚めていく。


体操が終わったらキャンピングカーに戻り、アリスティに朝食を作ってもらう。


パン。


ハム。


サラダ。


スクランブルエッグ。


……などなどのメニューで、お腹を膨らませる。


モーニングの後は、コーヒーを淹れて、リビングで一服だ。


のんびり二時間ほどダラダラと時間を潰す。





二時間後。


朝食が腹に収まってきたのを見計らって、運動をする。


何の運動もしないでいると、身体がナマってしまうからね。


適度に筋トレをする。


この日は筋トレに加え、剣の素振りをしたあと、アリスティと軽い組み手を行った。


せっかく軍人令嬢として鍛えてきた格闘技術。


それを忘れないためである。





そして昼食。


この日はステーキの定食を作った。


まあ肉はいっぱいあるからね。


ランチが終わると、外に出る。


樹木にかけたハンモックで昼寝をしたり、読書をしたり。


そうやってのんびりと過ごしていく。





夕方。


車内で夕食を食べたあとは、お風呂だ。


ローズマリーの入浴剤を入れておく。


シャワーを浴びて汗を流したあと、私はアリスティに頼んでお酒を持って来てもらう。


今日はビールが飲みたかったので、ビール瓶を一本。


グラスはジョッキではなく、細長いシャンパングラスだ。


そこにビールをなみなみ注ぐ。


注ぎ終わったら、ビール瓶は、湯舟のそばに設置しておいた小さなサイドテーブルの上に置いておく。


湯舟に浸かる。


そして。


夜のとばりが降り始めた美しい夕暮れを眺めながら、入浴を楽しむ。


「うん、今日も良い月だね」


浮かび始めた月を見上げながら、ぐいっとグラスをあおる。


ビールの酸味と苦味が口の中で弾ける。


しかもキンキンに冷えている。


冷蔵庫でがっつり冷やしておいたおかげだ。


最高に優雅なひとときである。


でも、これで終わりじゃない。


お風呂にはBGMスピーカーを設置してある。


そのため、壁に取り付けたコントロールパネルから、音楽を再生できる。


私はビールグラスをサイドテーブルに置いたあと、一度湯舟をあがって再生ボタンを押した。


ミュージックが流れる。


クラシックのピアノ音楽である。


自分で弾いた曲とはいえ、やはり音楽があると、全然違う。


そのバックグラウンドミュージックを聴きながら、私はもう一度、湯舟に浸かり、くいっとグラスをあおった。


ビールの冷たい苦味がスパァっと弾ける。


はぁ……最高だ。


入浴剤の香り。


美味しいお酒。


素晴らしい景色。


湯舟の温かさ。


ピアノクラシックの調べ。


これこそ、まさに、このスローライフ生活における集大成だ。


私は、そのうっとりするような時間を存分に満喫した。





やがて、お風呂を出る。


風呂上がりは、リビングでのんびりする。


アリスティと静かにお酒とおつまみを楽しみながら、語り合ったり……。


そうして夜も更けてきたころ。


「おやすみなさい、アリスティ」


「おやすみなさいませ。お嬢様」


アリスティに就寝の挨拶をする。


そして寝室で、眠りにつく。





これが、私の湖での生活だ。


日によって細かい違いはあれど、おおむねこんな感じで、毎日まったりと過ごしている。

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