第2章51話:スピーカーの使い方


「……? これは……」


ちょうどそのとき、アリスティが外からキャンピングカーに戻ってきた。


BGMの存在に気づいたようだ。


「音楽が流れていますね……これもお嬢様が?」


「はい。スピーカーというものを設置して、録音したピアノ曲を流しています」


「録音……」


「録音とは、録画の音だけバージョンですね。演奏した音楽を保存し、何度も再現することができます」


「なるほど。つまり、音だけをビデオカメラで保存したということですね」


「ん……えーと、まあ、そんな感じですかね」


アリスティの解釈は微妙に間違っている気がするが、本人が納得していればそれでいいだろう。


私は言った。


「一応、アリスティにもBGMの操作方法を教えておきますね」


「ビージーエム……?」


私は、音楽用語も含めて、アリスティにコントロールパネルの操作方法を教えていく。


まずは再生、停止について。


「ここに三つのボタンがありますね? まず一番左が再生ボタンです。真ん中が停止。現在はBGMが再生中なので、とりあえず停止を押してみますね」


停止ボタンを押すと、BGMが消えた。


ふたたび再生を押すと、BGMが流れ始める。


「簡単に再生と停止が行えるんですね」


「はい。あと、一番右は中断ボタンです。音楽を前回聴いたところから聴き始めたいときは、中断ボタンで一時停止をするといいでしょう」


「な、なるほど……」


柔軟な調整がきくことに、アリスティは軽く驚いていた。


続いて音量調節についての説明。


「さて次ですが……ここのプラス・マイナスでボリュームの設定ができます。たとえばプラスボタンを押せば、音量が上がります」


私はプラスボタンを5回押してみた。


するとリビング内のBGM音量が少しうるさいぐらいに跳ね上がる。


「す、すごいですねコレ……こんな簡単に音量を変えられるのですか?」


「はい。マイナスボタンを押せば音量が下がりますので、お好みのボリュームに設定してみてください」


私はマイナスボタンを押して、BGMを元の音量へと戻した。


「最後ですが……実は、現在、20曲ほどの曲を流せるようにしています」


「20曲……それをいつでも聴けるんですか。音楽家が知ればひっくり返るような技術ですね」


言うてたかが20曲なんだけどね。


これから100曲200曲と増やしていこうと思うけど。


「……で、その20曲には1番から20番までの番号を振っています。たとえば17曲目を聴きたければ、ここのフォームに17と入力して、再生ボタンを押してください」


アリスティの目の前で実践してみる。


17曲目はくるみ割り人形の【花のワルツ】である。


華やかな音楽が流れ始める。


アリスティは感激した。


「素晴らしい作りこみですね! 至れり尽くせりとはまさにこのことです。お嬢様の発明は高度なだけでなく、かゆいところにまで手が届く、高い利便性に溢れていますね」


「まあ、日本はサービス精神旺盛ですからね……」


どこまでもお客様ライクで行き届いた製品を作るのが日本流だ。


「とにかく、これで音楽はいつでも再生可能です。使い方の説明は以上です」


「ありがとうございます。どんな曲が聴けるのか、とても楽しみです」


気づいたら昼になっていた。


ではBGMでも聴きながら、のんびりランチへとしゃれこむことにしよう。



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