第2章48話:冷蔵庫


12日目。


私はキャンピングカー車内でお酒を作る。


お酒もまた、錬金魔法の加工処理で一瞬である。


とりあえず、


ビール。


ワイン。


清酒。


以上の三種類を作っておいた。


魔法防腐剤をかけて、ボトルに入れ、保存しておく。





スローライフ13日目。


昼。


晴れ。


湖から少し離れた森の中。


「ふっ!!」


アリスティがイノシシ型の魔物を蹴り殺す。


そして素早く解体して肉をゲットした。


「肉は現地調達が容易ですから、ラクでいいですね」


私はそう感想を述べる。


ここに来てから消費している食料は、主に二つであった。


一つはアイテムバッグに買いためた食料。


もう一つは、現地で倒した魔物肉。





湖周辺の森には、魔物がちらほらと現れるので、それをアリスティが処理をして、肉を確保するのだが……


結構大型の魔物もいる。


そういうのは一匹倒せば大量の肉が手に入る。


いまアリスティが倒したボロッグイノシシも、そのタイプだ。


体長は3メートル、高さは2.5メートルほど。


これほどの大物となると、むしろ肉を消費するのが大変なほどだ。


(まあ、防腐剤があるので、腐らせることはありませんけどね)


実は最近、【魔法防腐剤】を改良した。


現在は3ヶ月は一切食材を腐らないようにできる。


そして3ヶ月が経てば、もう一度、防腐剤をかければいいだけなので、実質永久保存が可能であった。






その夜。


肉と一緒にビールを飲む。


ただしここで不満があった。


ビールがぬるいのである。


異世界では、冷たい飲み物を飲みたいと思ったとき、専門の氷魔法使いがいれば、冷やすことも可能だ。


なんなら錬金魔法でも出来なくないのかもしれない。


ただ……


面倒だよね。


いちいち飲むたびに冷やす処理をするなんてさ。


最初から冷えていればラクでいい。


というわけで、食後。


私は冷蔵庫を作ることにした。


まあ冷蔵庫の仕組みなんて簡単なので、一瞬で錬成して完成させる。


上二段が冷蔵室、下二段が冷凍室となる冷蔵庫だ。


これで食べ物や飲み物を冷やすのはラクになったね。


この冷蔵庫はキッチンの横に置いておく。


さっそく中に、冷やしたいものを突っ込んでおいた。





スローライフ15日目。


昼。


晴れ。


キャンピングカーの外、湖のほとり。


私は、ピアノを作ることにした。


実は前世において、私は、ピアノを習い事にしていた。


工学や勉学が最大の関心事ではあったが、それ以外では、ピアノを弾くことだけは趣味として続けていた。


ピアノ歴は10年ぐらいである。


大抵のクラシック曲はソラで弾けるし、メロディさえ覚えていれば、楽譜がなくても演奏することが可能である。


「……できた」


作業を始めてから、10分ほどでグランドピアノが完成する。


さらに5分で、ピアノ椅子を製作する。


その椅子に座って、鍵盤蓋を開けた。


試しに音を鳴らしてみる。


ド、レ、ミ、ファと鳴らして、正しく音が鳴ることを確認する。


黒鍵も叩いてみると、心地よい音が響いた。


「うん……いい感じ」


バイエルとアルペジオで指の体操をする。


そのとき、ピアノの音に気づいたのか、アリスティがキャンピングカーから出てきた。


私のそばまで近づいてくる。


「お嬢様? これは……?」


「これはピアノと言います。前世の楽器ですね」


「ピアノ……ですか。見たことがない楽器ですね」


この異世界にピアノは存在しない。


でも、それは不思議なことじゃない。


そもそもピアノは、地球の歴史においても1700年ごろに登場した、比較的新しい楽器なのだ。


つまり産業革命以降の楽器。


この世界の文明レベルが中世ヨーロッパだとするなら、ピアノが発明されていなくてもおかしくはないだろう。


「前世ではとてもメジャーな楽器でした。今から一曲弾きますので、良かったら、聴いてください」


「はい。是非、聴いてみたいです」


アリスティがそう述べる。


私は、ピアノに向き直る。


楽譜はない。


でも記憶だけで十分弾くことができる。


深呼吸を一つ。


集中力を高め。


私は、鍵盤の上に指を走らせ始めた。

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