第2章46話:コーヒー


スローライフ10日目。


晴れ。


朝。


私はこの日、コーヒーノキを使ってコーヒーを造ることにした。


とはいっても。


別に特別なことはしていない。


コーヒーノキを、錬金魔法でコーヒー豆に変換しただけだ。


さらに粉末状にして瓶詰めにする。


錬金魔法は、こういう加工処理を一瞬で行ってくれる。


以前にデミグラスソースを作ったときと同じだね。


これで今日からコーヒーが飲めるようになるよ!




その日の昼。


熱湯を作るために給湯ポットを製作する。


同時にコーヒーカップ、ミルクポット、シロップと砂糖も錬成した。


ミルクポットにはミルクを入れておく。


そして粉末にしたコーヒー豆を袋に入れて、コーヒーカップに引っ掛ける。


沸かした給湯ポットから熱湯を注いだ。


少し飲んでみる。


うん……苦い。


でもコーヒーだ。


「これでコーヒーの完成ですね」


さっそくアリスティにも試飲してもらうことにした。


まず、もう一つコーヒーを淹れてから、リビングに移動し、テーブルに置いた。


アリスティを呼んで、椅子に座らせる。


「前世の飲み物を造ったので、せっかくですから、アリスティにも飲んでもらおうと思いまして」


「前世の飲み物……ですか」


「はい。コーヒーといいます。とてもメジャーな飲み物なので、きっと気に入ると思いますよ」


アリスティがしげしげとコーヒーに目を落とす。


私は言った。


「是非、飲んでみてください」


「ありがとうございます。では、頂きます」


アリスティがコーヒーカップを手に持つ。


そして、口に運んだ。


「これは……とても苦味があって、深い味わいの飲み物ですね」


アリスティはしみじみと感嘆したように言った。


少しうっとりした様子である。


無糖のコーヒーだけど、気に入ったようだ。


ただ……当然、コーヒーの素晴らしさはここで終わりではない。


私は言った。


「実はコーヒーは、ミルクを入れることで、まろやかになって飲みやすくなります」


「そうなのですか?」


「はい。そちらのミルクポットから少量、ミルクを垂らして、かき混ぜてから飲んでみてください」


アリスティが言われた通り、ミルクポットを使ってミルクを垂らした。


それをスプーンでかき混ぜる。


そうして優しい茶色になったコーヒーを、アリスティは口に運ぶ。


すると、目を見開いた。


「……なんですか、これは」


アリスティは本当に驚いたようだった。


「本当に……美味しいです。私、これはやみつきになってしまいそうです。お茶よりも、こちらのほうが断然好きですね」


「気に入りましたか?」


「ええ。甘さと苦味が調和して、飲みやすいのに、上品さも内包されています。最高級の茶葉にも引けを取らないと思いますよ」


「最高級の茶葉、ですか。前世ではコレ、庶民の飲み物なんですけどね」


そう言うと、アリスティがため息をついた。


「……もう、お嬢様の前世については、深く考えることを辞めました。だって明らかにおかしいですよね? これが庶民の飲み物って……」


「まあ材料さえあれば、誰でも作れますからね。専門店のコーヒーとなると、専門の方が作りますけど」


ただ私のような凡人には、そのへんで売ってるコーヒーも、専門店のコーヒーも、味の違いなんてわからない。


たとえばバリスタが丁寧に作ったと見せかけて、適当なインスタントコーヒーを出してきても、たぶん気づけないだろう。


(さて……私も)


ミルクを入れて飲み始める。


ああ、美味しい。


ほんのりとした甘さと苦味が胸に中に広がっていく。


そして久しぶりにコーヒーを飲む懐かしさも。




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