第2章45話:録画



湖でのスローライフ、8日目。


この日、私は湖について調べることにした。


たとえばだけど……


湖の中に、うっかり巨大な魔物とか住んでたりしたら怖いよね。


いきなり襲撃されたらビビりすぎて対処できないかもしれない。


なので、湖の中がどうなっているのか把握しておこうと思ったのだ。


まあ、別に難しいことをするつもりはない。


ビデオカメラを用意して、ゴーレムに持たせ……


湖の中をゴーレムに巡回させればいいだけだ。




というわけで、耐水仕様のビデオカメラを製作する。


作り方はわかっていたので、パパッと作ってしまった。


湖の前に立つ。


ゴーレムを召喚して、ビデオカメラを持たせる。


そして、湖の中を一周して帰ってくるように命じた。


(これでもしゴーレムが帰ってこなければ、水中に危険な魔物がいる可能性が高いね)


錬金魔法で創ったゴーレムは、魔物の攻撃対象である。


魔物は、野生のゴーレムと、錬成されたゴーレムを明確に区別している。


だからゴーレムが湖から帰ってこなければ、魔物に襲撃されて壊されたと考えたほうがいいだろう。


(まあとりあえずいってきてもらおう)


私はそう思って、言った。


「じゃあ、よろしくお願いしますね」


ゴーレムはうなずく。


そして湖に入っていった。


ゴーレムの姿が完全に水中に消えてから、私は背後を振り返る。


すると、樹木の下でアリスティがハンモックで寝転んでいるのが見えた。


アリスティは、ハンモックを設置したその日から、完全にハマってしまったらしく……


毎日のようにハンモックでくつろいでいる。


あんなに隙だらけのアリスティを見るのは久しぶりだ。


まあ……アリスティにも存分に羽を休めてもらいたいと思っていたから、安らいでいるならよかった。





さて、10分後。


ゴーレムが帰還した。


湖から水をしたたらせながらゴーレムが現れる。


特に傷を負った様子もなく、無事のようだ。


(おお。無事だったか。ということは、湖の中に魔物はいない感じかな?)


絶対とは言い切れないが、その可能性は高い。


まあ、本当のところどうなっているのかは、カメラで記録した映像に映し出されているだろう。


私はゴーレムからビデオカメラを受け取る。


「お嬢様?」


そのときアリスティが声をかけてきた。


「何をなさっておられるのですか? そのゴーレムが、湖から上がってきたように見えたのですが」


「ええ。湖の中を調査させていました」


「調査、ですか……?」


「そうだ。アリスティも一緒に確認してください。このカメラに、湖の様子が映っているんです」


「え? はい?」


意味がわからないとばかりに、アリスティが首をかしげる。


私は、アリスティに『録画』という技術について説明した。


すると、アリスティが、


「さすがにそんな技術があるとは信じられません」


と困惑を示した。


なので、実際に見てもらうことにした。


キャンピングカーの車内に入る。


テーブルに、横に並んで座る。


そしてテーブルにビデオカメラを置いて、録画映像を起動した。


映像が映し出される。


「こ、これは……っ」


アリスティが驚愕していた。


映像は、ゴーレムが私からカメラを受け取るところから始まっている。


そして、湖に歩いていき……


やがて、カメラが湖の中に入る。


水中の映像が映し出される。


大小さまざまな魚たちが泳いでいた。


濁りがほとんどない、美しい湖だ。


太陽の光が、水面から湖の中へ、レンブラント光線のように射し込んできている。


アリスティは声を失っていた。


やがて、ぽつりとつぶやいた。


「こんな技術が……本当に?」


「まあ、前世の技術ですけどね」


「これは、あの湖の中を記録して、映しているんですよね?」


「はい。その通りです」


アリスティは、もはやドン引きしていた。


よほど衝撃的なテクノロジーだったようだ。


アリスティは聞いてきた。


「あの……お嬢様の前世って、この技術が当たり前に存在したんですか?」


「ん、そうですね。水中の映像を撮るのは、普通に行われていたことですよ」


「普通……ですか。最近、普通とは何か、わからなくなってきました。とにかく『録画』という技術については、異常すぎて、言葉も出ませんよ」


「いや、でも、録画は庶民でも当たり前に行っていましたよ。キャンピングカーより全然普及してた技術ですね」


「日本という国における庶民とは、本当に庶民なんですか? 実は王侯貴族だったりしませんか?」


「いや、庶民ですね」


私は答える。


しかしアリスティは、納得がいかなさそうにしている。


お風呂と入浴剤。


録画。


自動車。


こういった技術が存在することも、こういった技術が庶民でも普通に手に入るということも、アリスティにはとてつもない異常事態に思えるそうだ。


私は言った。


「でも、便利でいいじゃないですか。湖に入らなくても、水中の様子がわかるんですから」


「……まあ、それは同意いたします。海や湖に潜るのは、命がけであることも多いですからね。潜らなくて済むならそれに越したことはないでしょう」


それっきり、私たちは水中の映像に注目し、黙り込んだ。


ゴーレムがどんどん深い位置へと進んでいく。


湖の内部はすり鉢のような形状をしており、ゴーレムの正面はゆるやかな下り坂となっていた。


深さは10メートル~20メートルほどのようで、すぐに湖底へと辿り着く。


太陽の陽射しが湖底を照らしている。


暗くなっている部分なんてほとんどない。


透き通るような透明の水が、どこまでも広がっている。


水棲植物がところどころに点在して生えている。


泳ぐのは魚ばかりだ。


魔物らしき姿は見当たらない。


ゴーレムが歩き出す。


あとは似たような景色のオンパレードだ。


結局、何事もなくゴーレムが湖を一周した。


そして湖から上がる。


私は言った。


「この湖は安全みたいですね」


「はい。そのようですね」


アリスティも、同意する。


危険のない湖で、ひと安心である。




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