第2章43話:ブランジェ家の視点3


ローラは思う。


(エリーヌを見捨てたから、ばちが当たったのかしらね……)


エリーヌの国外追放が決まった汚職事件。


その真犯人がディリスであることを、ローラは知っていた。


しかしフレッドに睨まれ、エリーヌを助けることができなかった。


結局、見捨ててしまったのだ。


そのことをローラは後悔していた。


(これは私の罪滅ぼしのチャンスかもしれない)


エリーヌを助けてあげられなかった罪。


それをつぐないたいと思った。


もしエリーヌと再会したとき、ちゃんと顔向けができるように。


そのためには口先の謝罪じゃダメだ。


行動で誠意を示さないと。


そう、つまり―――


(母上を告発する……!)


そして自分の手で、エリーヌの無実を証明するのだ。


それは巡りめぐってブランジェ家のためにもなることだと、ローラは思う。


今の母上では、ブランジェ家の舵取りはできない。


いや……


汚職なんてやった時点で、ディリスは名家の主としての資格を、とうに失っている。


早急に彼女を排除して、ブランジェ家の浄化を図るべきだ。


(まずは告発のための証拠集めね)


勘の鋭いフレッドはもういない。


母上は復讐に燃え、周りが見えなくなっている。


ならば……証拠集めは難しくないはずだ。


ローラは静かに決意を固めた。





そうしてローラは執務室を退室した。


屋敷の廊下を歩いていると、ブランジェ家が雇っている執事の一人に呼び止められた。


「ローラ様。ご報告したいことが」


「ん? 何かしら?」


「実は……」


執事は報告する。


なんでも、不審な『物体』が街道を走っていたとか。


その物体は、馬車のようにも見えたが、馬車よりも速く移動していたという。


主に街道を利用していた旅人や冒険者から目撃情報が挙がっており――――


一方で、街や村の住人からは、ほとんど目撃されていないとのこと。


「もしかすると新種の魔物かもしれないと思い、お耳に入れておきたいと」


「それはいつごろ目撃されたものかしら?」


ローラの質問に、執事が答える。


執事によると、『物体』が出現したのは、ちょうどエリーヌが屋敷を出たころの時期だった。


「なるほど……ちなみに、その『物体』に襲われた人は?」


「報告にはありません」


ふむ。


馬車のような魔物、か。


人を襲わないなら、魔物ではなく、新型の馬車なのだろうか?


現時点では情報は少ない。


ただ……。


(目撃時期が、フレッドとエリーヌが交戦した時期と重なっている、か)


それが気がかりだった。


さっきは、アリスティがフレッドを殺した、という結論に辿り着いたが……


実際は、その不審な『物体』がフレッドを始末した可能性もあるか?


人を襲わないそうだが、絶対とは言い切れない。


仮にそうだとすれば、相当危険な『物体』であると言えるだろう。


―――もちろん、その『物体』とはエリーヌが乗ったキャンピングカーのことなのだが、ローラは知る由もない。


「わかったわ。その不審な『物体』の足取りを追ってちょうだい。もちろん、聞き込みなどの情報収集も並行して」


「はっ。承知いたしました」


執事が去っていく。


それを見送り、ローラも自分の仕事へと戻っていった。


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