第2章42話:ブランジェ家の視点2


ローラは頭が良い。


だから現場の状況から、おおよその答えには辿り着いていた。


彼女が考えた推理はこうだ。




まず、エリーヌがなんらかの"兵器"でフレッド本隊を壊滅させた。


そのあと、後詰めの討伐をアリスティに命令したのだ。


そして全てが終わったあと、本隊だけを焼却した。


なぜ本隊だけを焼却したか?


それは、後詰めには"兵器"を使用していないからだ。


兵器を食らわせていない相手には証拠隠滅をする意味がない。


だから後詰めについては、戦利品を奪うだけに留め、遺体は放置したのだろう。





しかし。


この推理には、一つだけわからない点がある。


(エリーヌはその兵器をどこから用意した? フレッドやセラスを全滅させる兵器があったら、ブランジェ家が把握してないはずがないのに)


ブランジェ家は軍の名家だ。


新しい兵器が生まれたりしたら、真っ先に情報を得られる立場にある。


だからエリーヌが新兵器を手に入れたのなら、自分たちが把握しているはずだった。


……と、ここでローラは、すぐに答えを導き出す。


(いや、そうか。アリスティが用意したんだわ。そう考えるとつじつまが合うわね)


アリスティが兵器を用意し、アリスティがフレッドたちを全滅させた。


ローラはこのように推定する。


それだと矛盾はないからである。


―――もちろん、ローラの推理は間違っている。


しかし彼女は、凡庸なエリーヌが、まさか音響兵器などという未来技術を開発したなどとは、夢にも思わない。


ローラは情報を積み重ねて、あくまで現実的な結論に辿り着いただけだ。


(まあどんな方法で殺したにせよ、フレッドの死は自業自得ね)


ローラはそう思った。


フレッドが死んだことには驚いた。


しかし、ローラはむしろエリーヌ寄りの立場だ。


エリーヌに対して冷たく扱ってきた母と兄のやり方には、もともと否定的だった。


第一、今回もフレッドから襲撃を仕掛けたのだろう。


そのうえで返り討ちに遭ったのなら、同情の余地もなかった。


「ああぁ、フレッド……なんて可哀想なの」


しかしディリスは、フレッドにひたすら肩入れしていた。


「立派な葬儀をしてあげるわね、フレッド。それから、私があのクズな娘を殺して、きっと仇を討ってあげるわ」


「お母様」


ローラは再度呼びかける。


「今はエリーヌに構っている余裕はありません」


「……なんですって?」


「フレッド兄さまの死によって、ブランジェ家は窮地に陥るでしょう。早急に対処しないと、大変なことになります」


フレッドは尊大な男だった。


しかし、ぬきんでた実力があった。


だから現在のブランジェ家は、その大部分を、彼の功績に依存していた。


けれど、それがあまりにも突然、失われてしまったのだ。


大損害、というレベルではない。


ここで対応を誤ると家が傾くだろう。


しかし、ディリスは反論をした。


「だから、ブランジェ家を陥れようとしたエリーヌを殺せって言ってるんでしょう!!」


その言葉に、ローラはため息をつく。


話がかみ合っていない。


ディリスは事の重大さを理解していないのではないか。


「いや、ですから、お母様――――」


「とにかくエリーヌを殺すのは最優先事項よ!! 軍を差し向けても構わないわ!」


「いえ……今から追いかけても、エリーヌは国を出ているでしょう。殺すのは無理かと」


「だったらカラミア公国に捕縛と引渡しの要求をするのよ! 公国を脅しても構わないわ!」


「お、お母様……!? 何を仰ってるんですか!」


脅すなんて……そんなことをしたら国際問題になる。


さすがに容認できない発言だ。


――――ただ、実際はすでにエリーヌたちはカラミア公国すら越えて、リズニス王国にいる。


キャンピングカーの移動速度を知らないディリスとローラは、そんなことは知る由もなかった。


「うるさい! とにかくあのクズを捕まえて殺しなさい!」


ディリスは聞く耳を持つ気はないようだった。


エリーヌを殺せ。


その一点張りだ。


この母に、このまま家の舵取りを任せて大丈夫なのか?


そう思いつつ、ではどうすればいいのかと悩み、ローラはため息をつくばかりであった。

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