第2章40話:風呂づくり


(問題はスペースですね……)


最初にキャンピングカーを設計したとき、浴槽を作る構想がなかった。


そのため浴室は、シャワーを浴びるためだけのスペースしかない。


めちゃくちゃ狭いのだ。


ここに浴槽を設置することは不可能だ。


「スペースを広げるとなると……」


隣の部屋を削って、浴室を拡張し、浴槽のスペースを確保するしかない。


浴室の隣にある部屋はリビング。もしくは、アリスティの寝室。


寝室を削るのはひどいと思うので却下。


ならばリビングを削るか。


あ……!


そうだ、ちょうどいいスペースがあるじゃない!


(座席の後ろ……背もたれを倒すために、スペースを空けておいたんだった)


ここを削れば浴槽を作れる。


代わりに、座席の背もたれを倒すことができなくなるが……


まあ、別にいいよね。


「よし、そうと決まったら仕様を考えよう」


キャンピングカーの中をうろうろと歩きながら、思考の海にもぐる。


新しいお風呂の仕様は、とりあえず以下の三つでいいだろう。


(1)足が伸ばせて、肩まで浸かれる大きさの浴槽。


(2)お湯が沸いたことを知らせてくれるアナウンス音。


(3)温度調節や追い炊きの操作ができる壁面パネル。


さて、あとは周辺設備だ。


―――第一に、水が今まで以上に必要になる。


清水タンクと排水タンクを増設しておかなければいけない。


それにあわせて、水道の配管も増やしておかないと。


―――第二に、換気と乾燥の仕組み。


水気を沢山使うなら、言うまでもなく乾燥設備が必要だ。


換気や乾燥をちゃんとやらなければカビが生えてしまうからね。


―――第三に、これが最も重要だけど……


入浴剤が必要です!!


これが一番重要! 間違いなく!


(あとは風呂桶と浴槽のフタと、お風呂の掃除用具あたりを揃えておけばいいでしょうか)


だいたい構想は固まってきた。


よーし。


さっそく工事を始めてしまおう!


作業する。


作業する。


作業する。


あー。


やっぱり、ものづくりって、めちゃくちゃ楽しいね。


夢中になって時間を使っちゃうよ。


私は脳に気持ちいい酸素が巡るのを感じながら、作業を進めていく。


作業する。


作業する。


と、あらかた風呂のカタチが出来上がって来たとき。


窓があったほうがいいかな、と私は思った。


外の景色を眺めながら風呂に入るって優雅だよね。


ただし外に人がいたときは、窓を閉められるように、シャッター付きにしておいたほうがいいな。


急遽、窓を作る構想も入れつつ、作業を進める。


……そして2時間後。


工事は完了した。


「うう、思ったより時間がかかってしまいました……」


キャンピングカーは1時間で作れたのに。


一から作るより、出来上がったものを後から改築するほうが大変だと、痛感してしまった。


いや……言い訳かな。


私が未熟だから、工事に時間がかかったのだ。


次があれば、せめて30分で終わらせられるように精進しよう。


「お風呂、できました!」


さっそくアリスティに報告する。


そして使い方などを説明した。


アリスティは言った。


「本当にお風呂を作ってしまったんですね……」


もはやアリスティは呆れを通り越して、ちょっと引いていた。


しかし、湯船に浸かれるのは有難い……


ということで、最終的には喜んでくれた。


「入浴剤は、とりあえず柚子、薔薇、バニラ、カモミール、ローズマリーを作っておきました」


「十分かと思います」


「まあ、まだまだ作りたいですけど、今日はこのぐらいで」


他の入浴剤のアイディアは、いま作ったものがなくなってからチャレンジしよう。


こうして、キャンピングカーの風呂工事は終了したのだった。


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