第2章38話:休息
その日から私たちは、しばらく湖のそばで羽を休めることにした。
まあ、この一ヶ月、いろいろあったからね。
……汚職事件の罪を着せられ、投獄され。
……国外追放の命令が下り。
……屋敷を追放され。
……フレッドと戦い。
……そしてカラミア公国を超えてリズニス王国へ。
いやあ、本当に色々あった。
これがわずか1ヶ月間の出来事なんだから、驚きだ。
いくらなんでも濃厚すぎるよね。
だから、ちょっとのあいだ、休暇を取ってもいいと思った。
リズニス王国までくれば、追っ手も来ることはないだろうし。
のびのびと休養ができる。
(……あと、キャンピングカーも改良したいしね)
頭の中に改良案がいろいろ蓄積している。
人目のないこの湖は、キャンピングカーの改造を行うには最適な場所だろう。
アリスティにも以上のことを話すと、賛成してくれた。
「そうですね。しばらく心と身体を休めたほうがいいと、私も思います」
というわけで。
この穏やかな湖のそばで、私たちのスローライフが始まったのである!
まずは湖に到着した初日。
この日は清水タンクに水を補給してから、一日中、キャンピングカーの中でだらだらと過ごした。
錬金魔法でのクラフトさえしなかった。
ただ、何も考えずに、ぼうっと過ごした。
翌日。
この日も、何もする気はなかった。
ただ、近くにある樹木を眺めていると、私はふと思いついたことがあった。
アイテムバッグに集積した素材たちを使って、アイテム錬成をする。
作ったのは縄である。
それを二つの木の間に引っ掛け――――
ハンモックの完成だ!
「お嬢様……これはなんでしょう?」
アリスティが尋ねてきた。
「これは、ハンモックと言うんですよ。こうやって使うんです」
私はハンモックのうえに寝転ぶ。
そして全力で脱力して、ハンモックに身体を預けた。
「ふう……」
深呼吸をする。
そしてつぶやいた。
「……ええと、つまり、のんびりと寝転ぶための網ということでしょうか?」
「そういうことですね」
アリスティが納得する。
私は言った。
「アリスティ、サイドテーブルと林檎のジュースを用意してください。このハンモックのそばに置いてもらえると嬉しいです」
「かしこまりました」
アリスティがキャンピングカーに戻っていった。
指定の物を持ってきて、ハンモックの横に置いた。
私はハンモックに横向きに座って、林檎ジュースを飲む。
ほろりと甘酸っぱい林檎の味が口に広がった。
「はぁ……湖を眺める場所でのハンモック。最高ですね」
しばし、のんべんだらりとした後で、アリスティに尋ねる。
「アリスティも使ってみたいですか?」
「ハンモックをですか?」
「はい」
「いえ、私はメイドですし、主と同じように気を休めるのはよろしくないかと……」
「メイドの仕事については、まあ……私が用事を言ったとき以外は、適当にしててくれて構いませんよ」
この湖のスローライフについては、アリスティの休養も含まれているつもりだ。
最低限、メイドとしての仕事はやってもらいたいけれど、それ以外の時間は、気兼ねなく過ごしてもらいたい。
「まあとりあえず、もう一つ作りますね」
そう言ったあとで、私はアリスティ用のハンモックを作ってあげることにした。
それを、樹木に設置する。
サイドテーブルも設置しておいた。
「このハンモックはいつでも、好きなときに利用してくれて構いません。存分に羽を休めてください」
「お嬢様……。はい、ありがとうございます。ではお言葉に甘えて、利用させていただきます」
アリスティはおずおずとハンモックに寝転んだ。
そのとき私はふと思い出した。
(おっと、結界を張るのを忘れてたよ)
私はすぐに【生物除けの魔法水晶】を使用して、結界を張った。
これでキャンピングカーの周辺には結界が張られ、蛇や虫などの生物は侵入不可能となる。
同時に、現在、結界の中にいる生物たちも、たちまち外へ逃げていくだろう。
そんなふうにして、スローライフ2日目が過ぎていった。
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