第1章33話:草原の夜



オレート領の草原。


キャンピングカーを街道から少し離れた場所に停める。


雑木林のそばの草原の上である。


私とアリスティは夕食を食べてから、外に出て、夜空を見上げていた。


二つの月と星たちが静かに輝いている。


美しく穏やかな星空である。


アリスティは私に言った。


「明日でようやくリズニス王国でございますね」


「そうですね」


リズニス王国にいけば、ランヴェル帝国の影響範囲から外れることになる。


つまり、追っ手も届かない。


本当の意味で自由を手にすることができる。


アリスティは尋ねてきた。


「リズニス王国へ辿り着いたら、何をなさりたいですか?」


私は少し考え込んだ。


やりたいことを考えていなかったわけではない。


むしろ、逆だ。


やりたいこと、してみたいことがありすぎるのだ。


ただ……それらを一言でまとめるなら、これに尽きるだろう。


「思いきり人生を満喫したいですね」


一拍置いてから、続ける。


「なんならもう、リズニス王国にも定住せず、ずっと旅してもいいですね」


大自然の中でダラダラしたい。


いろんな場所を旅して、絶景を眺めたい。


美味しいものを食べたい。


春夏秋冬、四季折々の文物を楽しみたい。


キャンピングカーがあるんだから、どこへだって行けるはずだ。


せっかくだから、この世界を楽しみ尽くしてやろうじゃないか。


「……」


そのとき、私はふと黙り込んだ。


一瞬、悩み、そして決心する。


「あの……アリスティ。話しておきたいことがあるんです」


「なんでしょう?」


「冗談だと思わないで聞いてほしいのですが……私には、前世の記憶があります」


そう打ち明けた。



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