第1章27話:戦いの終幕
ズドン……ッ!!
弾けるような轟音が鳴り、起き上がろうとしていたフレッドの身体を吹き飛ばした。
数メートルほど後ろに転がり、やがてぴくりとも動かなくなる。
死んだか。
いや、まだわからない。
フレッドならば直前で防いだ可能性がある。
わずかにでも息があればポーションや魔法で回復できる世界。
ゆえに、完璧な死を与えておく必要がある。
「アリスティ」
「はい、なんでしょう?」
「フレッドの首をはねてください。万が一にも、回復することがないように」
「……承知しました」
アリスティは指示通り、フレッドの首を切断する。
これで、確実に死んだだろう。
もうどんな治療をほどこしても快復することはない。
「このあとはどうなさいますか、お嬢様?」
アリスティが聞いてくる。
私は答えた。
「ここにいるセラスたちの処理をします。あと、敵の後詰めがいると思いますので、始末をお願いしてもいいですか」
「承知しました」
私とアリスティは気絶したセラスたちにトドメを刺していく。
ナイフを持って、私は一人一人、丁寧に殺していく。
だが。
私が五人目の始末をしようとしたときだった。
「!?」
手にかけようとしていたセラスの女隊員。
気絶していたはずの彼女が、突然、起き上がって攻撃を仕掛けてきた。
(気絶していたフリ!?)
いや……たった今、目を覚ましたのかもしれない。
とにかく女隊員の短剣が私に迫る!
一撃目はなんとかかわせたが、すかさず二撃目が放たれる。
下から斜めに刃をすくいあげ、私の首を狙い撃つ綺麗な攻撃。
これはかわせない、と私は思った。
だけどそのとき、不思議な感覚があった。
相手の攻撃のタイミングや軌道、角度。
私がそれを回避してからの、反撃のシミュレーション。
そういった情報処理が一瞬で行われて、どう行動すればここから逆転できるかが、つぶさにわかるような感覚。
それはおそらく、軍人としての訓練を受けて来たエリーヌと。
ひたすら理屈の追求を行ってきた前世の自分とが、合わさったがゆえの感覚なのだろう……と私は推定する。
だからその感覚に従うことにした。
まず私はわずかに身をかがめて、首に迫ってくる剣閃を下に回避。
回避とほぼ同時に距離を詰めて、相手の剣を持つ腕のヒジを持ち上げる。
これで腋を開けさせた。
私はナイフを構える。
体勢的に、脇腹、横腹、腹、胸、首など、どこでも狙える状態だ。
死を予感したのだろう、女隊員はすぐさま後ろに飛んで間合いをあけようとした。
しかし私はそれすらも読んで、引き離されたぶんの間合いを素早く殺すと、ナイフの刺突を放って首に突き刺した。
「かッ……!?」
間髪入れず、突き刺したナイフを横にスライドして首をかっさばく。
これで致命傷だ。
女隊員が血に沈む。
「ふう……」
なんとか切り抜けられて、冷や汗をぬぐった。
(この女隊員、音響兵器のダメージがほとんど無かったみたいだね)
あるいは、目を覚ましたあとで即座に回復でも行ったか。
まったくどいつもこいつも……
手強い人ばかりで嫌になるね。
「お嬢様!?」
アリスティが駆け寄ってくる。
「大丈夫です。目を覚ました相手がいましたが、返り討ちにしましたから」
私は倒した女を視線で見下ろした。
アリスティは真剣な顔で言った。
「お嬢様。あとは私にお任せください。同じように目を覚ます相手がいるかもしれませんから」
「……そうですね」
というか、最初から殺すのはアリスティに任せておけばよかったかも。
音響兵器を使うまでは私の仕事、それ以降はアリスティの仕事。
そういう分担で、今後はやっていこうかな。
「わかりました。後は任せます」
告げて、私はキャンピングカーのそばに戻り、待機することにした。
ほどなくしてアリスティが全員を殺し終える。
その後、彼女は予定通り、後詰めを殺しに向かった。
数分後。
全てを終えたアリスティが戻って来た。
「4名ほど後詰めがいましたが、始末が終わりました」
「ご苦労様です。では、戦利品を回収したのち、遺体をここに集めます。手伝ってください」
「承知しました……が、何をなさるんですか?」
「遺体を焼却します。音響兵器の存在を知られたくないので」
焼却の理由は、遺体から情報を持ち帰らせないためだ。
賢い人間に遺体を分析されると、音響兵器の存在を悟られるかもしれない。
まだこの兵器を他人に知られたくはない。
安住の地を見つけるまでの切り札として、今後も使っていきたいからだ。
「そういうことなので、音響兵器を浴びていない後詰めのほうの死体は無視でいいです。そっちは戦利品だけ貰っていきましょう」
「かしこまりました」
私とアリスティは手分けして、遺体から装備やアイテムバッグなどを戦利品として回収した。
そして、フレッドとセラスの遺体を一ヶ所に集積する。
火を放って、焼却を始めた。
ただ、森の中での焼却は少し不安ではあった。
周囲に火が燃え移る可能性があるからね。
まあ、この円形広場は結構広いので、たぶん大丈夫だと思うけど……。
念のため、消火の道具を開発しておくとしよう。
キャンピングカーのリビングに戻る。
「……」
テーブルに着いて消火用具の錬成を行いながら、ぼんやりと考える。
――――人を殺した罪悪感は、多少なりともあった。
これは古木佐織として生きてきた人格が影響しているのだろう。
しかし、それ以上の達成感があった。
あの兄を越えたのだという、エリーヌとしての感情。
エリーヌは……強い。
もし前世のままの私だったら、殺すのをためらっていたかもしれない。
異世界でそんな甘さが許されないとわかっていても、感情がブレーキをかけただろう。
その結果、フレッドやセラスに逆転されて、殺されていたかもしれない。
今回、確実に彼らを殺し切ることができたのは、軍人令嬢として生きてきたエリーヌのおかげだ。
(まあ、でも、しばらくは平和に暮らしたいね)
私はこれからも、誰かを殺すだろう。
地球よりもはるかに厳しい、この異世界という大地の上で。
だけど、しばらくはお預けにしてほしい。
心からそう思った。
「ふう……」
消火用具が完成した。
一息つく。
こうして、フレッドたちとの戦いが終わった。
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