第1章24話:フレッド



――――フレッド・フォン・ブランジェ。


ブランジェ家の長男であり、次期当主。


天才と謳われた貴族だ。


知性、剣術、全てにおいて非凡な才能を見せ、帝国の軍部を瞬く間に掌握。


帝国最強の精鋭部隊【セラス】を結成する。


そのセラス、というのが、ここにいるフードの集団だろう。


私も初めて見る。


佇まいからして、一人ひとりが相当の手練れであることがわかる。


だが、それでもなお、ひときわ強大な存在感を持つのが、やはりフレッドである。


なにしろフレッドは、手ずからセラスの教官として彼らを鍛えたというのだから。


しかし、単に優秀な兄というだけなら、ここまで私が恐れることはない。


―――フレッドは、私に対して明確な敵意を向けていた。


フレッドの攻撃対象は、いつも私だった。


私に対する罵詈雑言は当たり前。


殴る蹴るの暴力に及ぶこともあった。


しかし、どんな目に遭っても、私はフレッドには逆らえなかった。


才能が違う。


実績が違う。


母もフレッドを溺愛し、私を卑下している。


この状態で、どうすれば私が兄に刃向かえようか。


理不尽なことをされても、我慢するしかなかったのである。


「愚かなお前でも、これがどういう状況か理解できるだろう? そう、お前を暗殺しに来たのだ」


フレッドは不敵に笑いながら言った。


「やっとお前を排除できるときが来た。お前は一家の恥だ。お前のような無能な人間と、同じ血が流れていると思っただけで反吐が出る。だから、お前を手ずから始末できるこの日を待っていたぞ」


殺意を向けられ、私はすくみあがった。


恐怖で思考が染まっていく。


私は、自分に言い聞かせる。


―――大丈夫。


恐れる必要はない。


そもそも、なぜ、これまで私はフレッドを恐れていたのか?


純粋な事実として、彼のほうが強かったからだ。


しかし、今もそうだろうか?


前世の知識と、それによって生まれた武器を持つ私は、兄よりも弱い?


―――否。


決してそんなことはない。


私には、フレッドを返り討ちにできる力がある。


これは願望ではなく確信だ。


そう思ったら、次第に恐れが引いていった。


身体の震えが止まる。


私は兄に向かって宣言した。


「そこから一歩でも前に進めば、ためらいなく殺します」

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