第1章23話:アネットの森


私たちは音響兵器を回収してキャンピングカーに戻った。


ふたたび発進する。


草原の街道をキャンピングカーが進む。


そのあいだに私は、さらなる武器としてショットガンを製作した。


20分ほどで完成したので、ふたたび実践テスト。


射撃は無事に成功する。


(ショットガンは魔物との戦いでも役に立ちそうですね)


ショットガンは使い勝手が良い銃だ。


拳銃やライフルと違って、素人でもそこそこ当てられるからだ。


今後しばらく使っていこう。


キャンピングカーに戻る。


しばらく草原を走行する。


やがて草原を抜けると、森にさしかかった。


いよいよアネットの森である。


森には街道が敷かれており、馬車が二台ほど通ることができる。


キャンピングカーも通行可能だ。


(この森を抜ければ、アネットの街に到着する……けど)


アネットの街にいけば豊富な素材も手に入る。


商人がそれなりにいるだろうから、アイテムを売却して資金調達するのもいいだろう。


しかし……問題は、街に辿り着けるかどうかだ。


私はこの森にフレッドが待ち構えている……と考えている。


そして、そうであるなら、既にこちらの存在を捕捉しているだろう。


フレッドは探知魔法を使えるからだ。


(いつ戦闘が始まってもいいように、準備しておかないと)


そう思い、私はショットガンに弾を装填したり、音響兵器の最終点検を行った。


そして。


「……!」


森を30分ほど進んだとき。


ふいに停車する。


警報器がピコピコと音を鳴らした。


運転ゴーレムが異変を察知したのだ。


私は前部座席にいって、フロントガラスの先に広がる景色を見つめた。


そこはアネットの森の中心部にある円形広場。


【アネット森林広場】と呼ばれている場所だ。


森の途中で、馬車が休憩するための広場である。


その広場に、ずらりと並ぶフード姿の男女がいた。


全部で20~30人ぐらいか。


その集団の先頭に立つのは……


やはり、私たちが予期していた存在。


兄、フレッドである。


フロントガラス越しに目があってしまった。


「下りてこい、エリーヌ!」


フレッドが告げる。


空気を切り裂くような鋭い声だ。


「下りてこなければ、このけったいな馬車ごとお前を破壊する!」


馬車じゃなくて自動車ですよ、兄上……と心の中で突っ込みを入れる。


まあ、兄の指示を拒否するつもりはない。


まずは【音波無効のネックレス】を身につけていることを最終確認。


アリスティが同じネックレスをつけていることも確認。


そして音響兵器とショットガンを忘れず持つ。


いよいよ、外に出る。


私たちの姿を見て、フレッドはふんと鼻を鳴らして言った。


「やはりアリスティもいたか」


彼と対峙する。


フレッドは続けて言ってきた。


「久しぶりだな、愚妹」


愚妹。


それはフレッドが私を呼ぶときの、いつもの呼称だ。


「予想以上に早くこの森に来たな。その新型馬車のおかげか」


「これ、は……っ、馬車、では……」


そのとき私は、自身の異変に気づいた。


身体が震えている。


呼吸が苦しくなり、声が出なくなる。


状態異常攻撃?


いや……。


違う。


これは、恐怖だ。


フレッドに対する、私が持っていた本能的な恐怖心。


それが心の底から沸き起こっているのだ。


「ふん。俺を前にして恐れおののくとは感心したぞ。己の立場を忘れてはいなかったらしい」


得意げなフレッドの笑み。


私は、改めて彼の強大さを認識する。

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