第1章21話:兵器とアクセサリー



さて、食事が終わった後、キャンピングカーを再度発進させる。


同時に、錬金魔法の作業を開始した。


すぐにでも作っておきたいのは、強力な兵器。


着想は既に得ている。


昨日、警報器の爆音について話したときだ。


耳を壊すほどの爆音を鳴らす……といった情報から、ひらめきのヒントを得た。


つまり、私が作ろうとしているのは、音響兵器だ。


――――音響兵器。


それは音を使った攻撃兵器である。


敵に音波と呼ばれる音の波を照射することで、鼓膜を破り、三半規管を揺さぶり、脳すらも破壊する。


私がこの兵器に注目した理由は二つある。


(素材があまり要らないこと。それから、安いこと……ですね)


前世の音響兵器がどうだったかは知らない。


しかし少なくとも、錬金魔法を用いれば、低コストで生産できる兵器である。


必要なのは『金属』と『音』を錬金魔法で加工する技術だけだからだ。


(一応、音についても勉強しておいてよかった)


前世では分野を問わず、あらゆる学問に関する専門書を読んでいた。


音の分野に関しては、音響学・音響工学などの知識が役立つだろう。


それらを念頭に置きつつ、私はアイテム錬成を開始する。


「装置の骨子は……指向性は……音圧と……ぶつぶつ、ぶつぶつ……」


頭の中で案をまとめる。


そうして案が完成したところで、さっそく作業を始める。


30分後。


音響兵器が完成した。


「できました……」


理論上、完璧な音響兵器である。


さっそくテストしたいところだが、その前に……


(音波を無効化するアクセサリーを作らないといけませんね)


この音響兵器は特定の方向に音が飛んでいくわけではない。


全方位に音波が発射されるのだ。


だから、このまま使ったら、敵だけでなく自分も味方も照射されてしまう。


それを防ぐために、音波無効のアクセサリーを作らなくてはいけない。


(そんなに難しくはないはず……)


音波とは、音の波である。


ある方向に進む「波」は、逆方向から同じ「波」をぶつけられると、打ち消しあう性質を持っている。


いわゆる『弱めあい』という現象だ。


この原理を念頭に置けば、音波攻撃を無効化する装備を作れるはずだ。


……30分後。


狙い通り、二つのアクセサリー……【音波無効のネックレス】が完成した。


「アリスティ。これを受け取ってください」


「これはなんでしょう?」


首をかしげるアリスティに、私はまず、音波兵器の説明を行った。


そのうえで告げる。


「その音波を無効化するためのアクセサリーがこれです」


説明を聞いて、アリスティは絶句していた。


私がせっせとこしらえていたものが、とんでもない対人兵器であると気づいたためだ。


「それじゃあテストしたいので、いったん車を止めますね」


私はゴーレムに指示を出して、駐車する。


下車すると、そこは、だだっ広い草原だった。


周囲には誰もいない。


好都合である。


私とアリスティがネックレスをつける。


そうして、十分に安全を確認してから、音響兵器を使ってみた。


キィィィィン……ッ!!


爆音や轟音とは違う、まるでハウリングのような音の波動が兵器から放たれる。


空気のゆらぎが目視でも見えるほどの音の振動。


(どうやら成功したみたい)


音波はちゃんと作動した。


さらに、それをネックレスが無効化してくれている。


一応、本当に敵に通用するのかということを確かめるため、魔物にも使ってみることにした。


魔物を探し、ウルフを発見したあと、音響兵器を食らわせてみる。


結果、見事に一撃で気絶へと追い込むことができた。


これで兵器とアクセサリーのテストは終了だ。


なお、倒したウルフはアリスティに解体してもらい、肉にしてもらうことにする。


「お嬢様は……とんでもない兵器を生み出してしまいましたね」


アリスティが感想を述べた。


私は言う。


「魔物や盗賊への対策……という目的もありますが、それ以上に厳しい戦いが目前に迫っていますから」


「それは……」


「はい。刺客との戦いです」


私はそう答えた。

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