第1章18話:人魚と給水


浮かび上がってきたのは、私の友人の人魚……ユリシェである。


彼女とは、5年ほど前にたまたまこの湖で遭遇し、以来、友人となった。


「実は、いろいろあって国を出ることになりました」


私は、自分の事情をユリシェに話した。


ユリシェは無口である。


何も言わず、ただ私の話を聞いてくれた。


全てを話し終えたあと、ユリシェがぽつりと尋ねてくる。


「……もう会えない?」


「わかりません。でも……そうですね。いつかまた会いにきますよ」


今はそう言うしかない。


ユリシェはしばし黙考してから、小さくうなずいた。


「……待ってる」


私の心に寂しさが込み上げる。


それを振り切って、一つ、尋ねた。


「あの……お願いがあるんですが」


「……なに?」


「給水してもいいですか?」


「……給水?」


――――キャンピングカーでは水を使う。


シャワーやトイレなどにおいてだ。


これらの水は車の中から無限に湧き出てくるわけではない。


清水タンクにあらかじめ補充しておいた水を利用しているのだ。


水はもちろん、使えば、なくなっていく。


そして昨日、シャワーやトイレを利用したことで、水が尽きかけていた。


なくなってきたら補給しなければならない。


だから給水だ。


「えーと、つまり、湖の水を分けてほしい、ということです」


「……うん。いいよ」


了解が得られたので、さっそくゴーレムを創造した。


ゴーレムに命じて、給水を行わせる。


ゴーレムは給水ホースを湖に浸す。


ぐんぐんホースで水を汲んでいく。


……。


……ちなみに。


清水タンクは雑菌が繁殖しやすい。


なのでキャンピングカーの水道水は飲まないほうがいいとされる。


もし水を利用したい場合は、浄水をして、水を綺麗にしておかなくてはいけない。


だから私は、浄水機を、キッチン、シャワー、トイレなど全ての水場に設置している。


車内の水道を通ってきた水は、それらの浄水設備を通して必ずクリーンになるわけだ。


まあ雑菌の入った水でシャワーなんて浴びたくないし、そういう水も飲みたくないからね。


浄水処理をした澄んだ水を利用する。


それが私のキャンピングカーだ。


「よし、こんなものですかね。ありがとうございました、ユリシェ」


全ての作業が完了したので、ユリシェに礼を言う。


「……うん。またね」


ユリシェがそう告げて、湖の中にもぐっていく。


私はしばし湖を眺める。


ややあってから、キャンピングカーへと戻った。



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