第1章11話:旅の方針


このキャンピングカーにはパワーのあるエンジンを積んでいる。


たとえきつい坂道でもラクに昇れるだろう。


しかし、そういうエンジンほど音がうるさい。


いわゆるカラカラ音が車内に響いてしまうのだ。


このカラカラ音については、前世ですら遮断することが困難だ。


(でも対策はバッチリしておいた)


前世では無理でも、異世界には錬金魔法がある。


この魔法も未解明な部分が多いが、キャンピングカーの防音には非常に役立った。


最高品質の防音材を作ることに成功したのである。


おかげでカラカラ音を完全に遮断することができた。


だから車内は、少なくとも音に関しては、とても静かで快適だといえる。


(でも、やっぱり揺れがきついかな)


キャンピングカーの揺れ。


短時間の走行ならともかく、長く乗ると、確実に車酔いするだろう。


なんらかの対策を打つべきだ。


キャンピングカーを改良する案は、思いついたが、たぶん材料が足りない。


現在の【素材変換】では手に入らない素材が必要なのだ。


なので車自体を改造するアイディアはいったん保留する。


代わりに、酔い止めの薬を作ることにした。


私はテーブルに着いて作業に取り掛かる。


「よし、完成」


酔い止めの薬を二つ作った。


一つは私のぶん。


もう一つはアリスティのぶんだ。


「酔い止めです。よかったら飲んでください」


「有難うございます、お嬢様」


アリスティは礼を言ってから薬を飲んだ。


私も飲む。


これでひとまず酔いの問題は安心だろう。


「さて……これからのことについて話しましょう」


居住まいを正した私はそう切り出した。


アリスティは真剣な顔になる。


私は続けて言った。


「私にとって直近の課題は三つあります」


「三つ、ですか」


「はい。一つ目はお金です」


現在の手持ちは、金貨が約20枚。


日本円にすると、たった20万円ほどしか持っていない。


ちなみにアリスティも金貨30枚しか持っていなかったので、あわせても50万円だ。


これではいずれ路銀が尽きてしまうだろう。


今後のことを考えると、お金はいくらあっても足りないのだ。


「二つ目は錬金魔法の強化です」


私の錬金魔法はまだまだ未熟。


もちろん科学的知識のおかげで、ある程度のレベルには達した。


キャンピングカーを1時間で自作できる程度には。


しかし錬金魔法の伸びしろは無限大だ。


魔法は、剣術などと同じで、鍛錬すればするほど成長していく。


なのでこれから錬金魔法を使い倒して鍛えなくてはいけない。


「三つ目は、武力です」


異世界において戦闘能力は必須。


私には戦闘技術はある。


そしてアリスティもまた超一流の軍人メイドである。


したがって現在、私たち二人は武力的にはそこそこの水準に達している。


そのへんの盗賊なら楽勝で蹴散らせるだろう。


しかし、それでも不十分だ。


安全、安心な異世界生活を送るためには、圧倒的な戦力を確保する必要があるだろう。


たとえ魔王が相手でも、竜が相手でも、勇者や英雄が相手でも。


確実に蹴散らせるぐらいの武器や兵器が必要だ。


「以上の三つが必要です」


「どれもすぐに手に入るものではありませんね」


「そうかもしれません。だからとりあえず今後の方針だけ決めておきましょう」


「方針、ですか」


私はひとつうなずく。


それから説明した。


「私はこれからこのキャンピングカーの中で、とにかくアイテム錬成をしまくります」


そして大量のアイテムを作る。


「で、そうしてできたアイテムを次の街で売却して、資金を稼ぎます。同時に次の錬成のための素材も購入します」


これで錬金魔法の強化を行えるし、資金の調達もできる。


「このサイクルの中で、強力な武器や装備を錬成します。しばらくはこの流れで旅をしていきたいと思っています」


「なるほど。異論はございません」


「……ちなみに、何か意見などはありませんか?」


「そうですね……錬金魔法を多用するなら、マナポーションをたくさん買ったほうがいいと思います」


「なるほど、その通りですね!」


魔法は魔力を消費する。


魔力とは、体力の一種。


使うと疲れるし、枯渇すると動けなくなる。


なので魔法を連発したり多用したりする場合、マナポーションによる回復を行わなければならない。


アリスティの指摘はもっともだ。

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