第1章3話:再会と旅の仲間
素材屋を出た私は、ひとまずカフェで昼食を取った。
スープ定食とお茶をいただく。
それが終わると、店を出て、領都の東門へと向かった。
東門を守る門兵の前を素通りして、いよいよ街を出る。
まったく。
こんな形で、領都を離れることになるとはね……。
まあ、これから良いことがあると信じよう。
街道を歩きはじめる。
と、そのときだった。
「エリーヌお嬢様!!」
後方から呼びかける声がした。
私は振り向く。
駆けてくるのは一人のメイド。
私にかつて仕えてくれたアリスティ・フレアローズだった。
ボブカットの黒髪と、紅い瞳。
メイド服を着て、腰にはアイテムバッグを一つ提げている。
「……アリスティ」
「お嬢様……再会できて良かったです」
立ち止まったアリスティは心底安堵したような顔であった。
「どうして私のもとへ?」
「お嬢様が国外追放になったと聞いたら、いてもたってもいられませんでした。本当に心配いたしましたよ!」
「……そうでしたか」
アリスティはかつてブランジェ家をクビになったメイドだ。
私に対する冷たい扱いを改善するよう、しきりに母に苦情を入れた結果、鬱陶しがられて排除されたのである。
以来、アリスティと私は2年も会わせてもらえなかった。
久々の再会というわけだ。
「見送りに来てくれたのは嬉しいです。しかし、私と一緒にいるところを誰かに見られたら、汚職の関係者だと思われるかもしれませんよ?」
私がそう告げると、アリスティは首を横に振った。
「見送りに来たわけではありませんよ」
「……どういうことですか?」
「もう一度、仕えさせていただきたくて参りました。ブランジェ家ではなく、エリーヌお嬢様のメイドとして」
私は目を見開いた。
アリスティの目は真剣だった。
しばし悩んでから、私は答える。
「……いいえ。アリスティ? 私は国外追放となる身です。何度も言いますが、私と一緒にいるとあなたに良いことはありません」
「私は汚職なんて信じていません。ディリス様にはめられたんですよね?」
「……」
「そもそもお嬢様はほとんど屋敷に軟禁状態だったはずです。汚職なんて出来るわけないじゃありませんか」
アリスティの言う通り、私は母に命じられて、ここ1~2年ほどは屋敷に閉じ込められていた。
私が外に出て恥をさらさないように、というのが理由だった。
軍の仕事も、ほとんど代理の人間がやっていた。
もちろん一度も外に出られなかったわけではないが、そのわずかな外出のあいだに汚職を行うなんて無理である。
汚職があったとされるのは、直近1年ぐらいのことなのだから。
ゆえにアリスティの推測は正しい。
私は汚職に関わっていないし、母に罪をなすりつけられた身だ。
しかし。
「それでも私が犯人ということで処理されました。真実はどうあれ、世間的に私は犯罪者なのです」
「だからお嬢様を見捨てろというのですか? 私はそこまで腐ったつもりはありません」
「アリスティ……」
「お嬢様が善良なお方であることは私が一番存じております。そんな方を、見捨てられるはずがありません。だからどうか、もう一度、私をそばに置いてくださいませ! 必ずお嬢様を守ってみせますから!」
アリスティが頭を下げてきた。
私は悩んだ。
私とともに来ることが、アリスティのためになるのか?
しかし、正直、アリスティが一緒に来てくれることは有難い。
アリスティはメイドではあるが、ただのメイドではなく、軍人メイドである。
身の回りの世話をしてくれるだけでなく、護衛としても一流なのだ。
味方としてこれほど頼もしい存在はいない。
うん……ここはお言葉に甘えよう。
何より私も、もうアリスティと離れ離れにはなりたくなかったから。
「わかりました、アリスティ。では再び、私のもとで仕えてくれますか?」
「……!! はい!」
「ありがとうございます。では、改めてよろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくお願いいたします、お嬢様……!」
こうしてアリスティとともに旅をすることになった。
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