第3話 現れたモノ

 一面の岩肌が続く荒野に、粉塵と白い煙が舞い上がる。やがて乾いた風が、それらを空高くにさらっていった。


「2発でも完全には壊せないか、見た目の割に頑丈だったな。まあ、これだけ壊れれば十分だろう」


 視界がクリアになり、爆破の成果があらわになる。ドーム状だった聖櫃アークは半分が割れた卵のように、ぽっかりと頂部が割れている。


「多めに爆薬を持ってきといて正解でしたね」

「だな。さて、あとは中身を調べるだけだ。撮影のカメラ、用意しとけ」

「はい」

 

 岩陰に潜んでいた2機のマギアが壊れたドームに近づく。ここまでは順調すぎるくらいに、上手くいっている。


「……しかし、この“ロクスタ”とかいう機体は扱いづらい。速度は大したものだが、いかんせん火力が足りないわ、足がヘンテコで繊細だわ。任務とはいえ、俺みたいな粗忽者そこつものに使わせるかね」

「そういう割には乗りこなしてるじゃないですか。俺はこの機体、乗り心地が良くて好きですよ。思った通りに動いてくれるんですよね」

「ほう、コイツが扱いやすいか。父親の言う通り、センスは大したもんだ」

「……親父は関係ないです。俺はマギアに乗れればそれでいい」

「そうか」


 アンジーはまだ父親とうまくやれていないらしい。不器用なところは父親似だな。


 岩陰を飛び出してから、ドームとの距離が近づいた。ここからは遮蔽物がなくなる。いつもの戦場だったらと思うと肝が冷える。そう考えた瞬間、地面が爆けた。轟音が遅れてやってくる。続けざまに地面が抉られ、それが次第に迫っている。


「攻撃だ、ドームに走れ! 残った部分に隠れるんだ!」


 地を蹴り、砲弾の雨を掻い潜る。機体の側を弾が通るたびに、不快な音がする。嫌なことを考えた矢先にこれだ。ドームまであと少し。神よ、救いたまえ……!


 一心不乱に荒野を駆け抜け、破壊を免れたドームの一部にすべり込む。続くアンジーも無事にたどり着いた。互いに損傷はない。砲撃が来た方向にマギアの目を凝らす。……2000メートル先に敵3機を確認。妖精のエンブレムはフェアリエ王国のマギアであることを示している。


「思ったよりも対応が早い、のくせにやる。アンジー! 機体に問題はないか?」

「問題ありません、やれます!」


 アンジーは銃を構え、反撃の合図を待つ。


「焦るな、任務を思い出せ。撃ち合いはそれからだ」

「……了解」


 砲撃が続くなか、ドームの陰で耐え忍ぶ。完全に破壊できなかったことが幸いした、ドームの強度は、今や俺たちの盾になってくれている。戦場での運はバカにできない。運が味方のうちに、やっちまうが吉だ。


「アンジー、合図したら脱出経路に走れ。俺はピクシーどもを引きつける」

「それは俺がやります。俺の方がうまくやれる」

「任務を思い出せと言っただろう! お前の方がうまくやれるから、脱出して情報を持ち帰れ。それが俺たちの任務だ」

「だけど……」

「安心しろ、死にはしねえ。俺はツイてるからな」


〈ティタニアの兵士、武器を捨てて投降しろ。我々はお前たちの安全を保証する〉


 やや訛ったの言葉が荒野に響く。敵の降伏勧告か。こっちの所属がバレてるってことは、情報元はヘマをしたってことだ。


〈わかった。そちらの言うことに従う〉


 相手の要求を飲む……ふりをする。


「中尉」

「わかってる、どうせ出た瞬間に撃たれる。作戦通りに行くぞ」

「了解」

「通信を切る。合流地点で会おうぜ」

 

 マギア同士でアイコンタクトを取る。意味もないことだが、それが最期の姿かもしれないのだ。命を託す相手の姿は見ておきたい。アンジーもそういう気分だったのか、無機質な瞳をこちらに向けている。


 だが、アンジーの姿は見えなくなった。脱出に向かったわけじゃない、まだそこにいる。俺たち二人は動けなくなった。。ソイツの目が俺を捉えている。

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