11_婚約式 ―2

 事は順調に進んだ。ホテルは三途川がすぐに予約し、パーティーの招待状を広岡が用意する。司会は結局澤田に頼むことにした。最近宴会だの旅行だの、幹事としてノリに乗っている澤田。哲平の言う通り、調子に乗っている感がありウザいとは思う。だが場慣れしているのがデカい。途中ハプニングが起きても澤田なら大阪魂で上手く対処できるだろう。


 指輪は哲平のお蔭でサイズが分かり、広岡は何日かかけて購入した。アドバイスは哲平の妻の千枝や華からもらった。可愛いピンクダイアの埋め込まれた指輪だ。

「安っぽくは見えないかな」

 広岡の不安を華が笑う。

「絶対気に入るって! そのデザイン、すごく可愛いよ」

 華の審美眼には信頼を置いている。広岡は安心しておくことにした。


 作った招待状の中で2通を脇に避けてある。両親へのものだ。あまり早めに出したくない。

(もう少ししたら出そう)

それなら何を言われようともう止まることなど出来ない。


 招待状を受け取った者はそれぞれ広岡に声をかけた。

「婚約式か。俺に出来ることはないか?」

 河野課長はいつだって親身になって心配してくれる。

「ありがとうございます。哲平や三途さん、田中さん、華が面倒見てくれてます」

「すごいメンバーだな! じゃ安心だな」

「はい! 当日は是非」

「喜んで出席させてもらうよ」

 ジェイはやたら周りをうろつく。嬉しいのと、広岡が遠くなるようで寂しいような気がするらしい。

「広岡さん……結婚してもあんまり変わんないでほしい……」

「お前の言葉、聞きようによっちゃかなり意味深だぞ」

 華に言われて首を傾げ「なにが?」と聞く。途端に華に頭を叩かれた。

「そんな顔もそんな仕草もすんな!」

「訳分かんない! なんで俺が叩かれんの!?」

 そばでは河野課長が(よくやった、華!)という顔をしているが、それには誰も気づかない。


 広岡側はほとんどがオフィスメンバーと大学からのつき合いが続いている者。親類には一応数人の穏健な人たちに用意はしている。両親に出すのと一緒に出した。

 莉々側は哲平が預かってくれると言うから頼んだ。彦助にはギリギリまで渡さないつもりらしい。絶対に莉々にバレる。


 招待状への返事はかなり集まった。けれど広岡家の関係からは一通も来ない。多分どうするかみんなで話しているのだろう。

(来なくていい、その方がほっとする)

一応澤田には事情を伝えてある。

「大丈夫、その時にはきちんと対応するから。安心してください」

「でも何を言いだすか、どんな顔するか分からないんだ。みんなが不愉快な思いをするかもしれない」

「その時はその時! 今から心配すんのやめましょうよ」

 今さらながら(澤田に頼んで良かったかもしれない)と、その落ち着きぶりにホッとする。


 そしてとうとう当日。


「なんで? お兄ちゃんのお友だちのパーティーに私が行くの?」

 もう宇野家では他の家族はもう先に出ている。土壇場で勝子に言われた彦助は、あたふたと用意をさせられて勝子に叱咤されながら出て行った。

「広岡も来るよ、共通の友人だから。みんなペアで参加するって知ったばかりでさ、まさか他の子と出かけるようなヤツだとは思わないだろ?」

「そりゃそうだけど」

「じゃ着替えてくれ。パーティーだからお洒落しろよ」

 千枝も先に会場に言ってるのだと聞かされ、莉々はすぐに用意を始めた。

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