第伍話 透明化魔法は全裸が前提

リシュナちゃんは砂糖をコーヒーに入れるのは勿体ないと言い出し、砂糖をコーヒーに入れることで美味しくなると説明したのだけど、どうしてもコーヒーの苦味が嫌になったのと砂糖を純粋に味わいたかったのとあって、次々にスティックシュガーをスプーンに出して舐めるという行為を繰り返し、合計5本も舐めていた・・・その間はずっと幸せそうな顔をしていた。



「ニュースを見たいからTVをつけるわね」



口に出した直後にリシュナちゃんにはわからないだろうと思ったけど、何も言わないよりは良いかなと思い直した。



「何を言っているのかわからんが良いぞ」



「ありがと。リシュナちゃんに害はないから」



返事をしつつテレビをつけた。ちょうどニュース番組の始まった直後でタイミングが良かった。



『まず最初のニュースです。東京都中野区に国籍不明の外国人が民家に立て篭もる事件が発生し、今なお警官隊が立て篭もられた民家を取り囲んでおります』



東京都中野区とは東京特別区の中でも西側に位置する特別区で、サブカルのメッカなどと言われていたりするくらいには独特の文化がある街で、あたしが住んでいるここがその中野区だ。



「どこかわからかないけど、近くで物騒ねぇ」



「なんじゃ?これは大きなタブレットではないのか?」



「画面、その動く絵が映っている部分は同じ様な技術で作られているんだけど、タブレットとは違うものね。

 その動く絵を映像というのだけど、それを大本で作っている場所があって、そこからこれらのテレビへ同じ映像を送る技術で情報共有をしてくれる機械なの」



「それはまたすごい物が出てきたのう。

 それで話の腰を折ってすまん、何が物騒なんじゃ?」



「ちょうどこの家の近所で人質を取って立て篭もる強盗みたいのが出ているみたいなの・・・


 ・・・って、この画面に映っているこれって、もしかしてリシュナちゃんの知り合いじゃない?」



画面を指差しながらリシュナちゃんに尋ねた。



「魔王じゃな」



「魔王が立て篭もっているの!?」



かなで、この場所はここからどのくらい離れているんじゃ?」



「う~ん・・・あれ?これ、住宅街だから滅多に行かないけど、ちょっとだけ奥に行ったところね・・・ここからだと100メートルくらいかしら?」



「なるほど。あやつも転移に巻き込まれおったな」



「ええ!じゃあ、昨日の夜に魔王も来ちゃってて、右も左もわからないまま立て篭もり犯になっちゃったってこと!」



「恐らくそうじゃろう。ヤツも本質的には魔力がないと大したことができぬし、言葉も通じぬしで、そんな感じになったんじゃろうなぁ」



そんなやり取りをしていたらニュース番組の現場リポーターの声が聞こえてきた。



『犯人の国籍不明外国人はまったく言葉が通じず、警官隊の説得が難航しているようです。

 朝になり警官隊の人員が集まってきており、状況を判断し踏み込むつもりのようです』



「リシュナちゃん、このままでは警察、この国の治安維持をする兵隊みたいな組織のことね・・・が、魔王を捕らえるために本格的に動き出すみたいなの。

 変に刺激して魔王が暴走しても困るし、どうにかあの中を掻い潜って魔王だけ連れてこれないかしら?」



「多分大丈夫じゃと思うぞ。透明化する魔法は自身の魔力で維持するから何分かなら使えるからな。

 透明になってサッと行って事情を説明すれば、あやつもちゃんと判断し妾に従うじゃろう」



「透明になるのは良いけど、着ている服とかも透明にできるの?」



「魔素があればできるのじゃが、今のこの状態では不安要素じゃな。

 すまぬが、全裸になってくれ」



「え?あたしも行かないと駄目?」



「妾はまだこの世界に疎すぎる。何か遭った時に対処するための知識として居てもらわねば困る」



「うーん、そうよね。全裸で外を出歩くと思うと緊張するけど、そんな事を言っている場合じゃないわよね」

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