第10話 ほんとに大丈夫


「う、嘘でしょ……?私ちゃんと確認したつもりだったのに……!?」

彼女は自分のチケットと僕が手に持っているチケットを交互に見ている。

彼女の顔は段々と歪んでいき、唇を歯で噛んでいた。

僕はなんだかそんな彼女の様子を見ていると可哀想になってきて、彼女の背中に手を当てた。

「…大丈夫だよ、また今度でも見に来ればいいさ。ところで、その間違えてしまった映画はなんて言う映画なの??」

彼女は僕の話を聞きながら俯いていた顔をゆっくりとあげた。

「…津波の人魚。」

彼女は悲しそうな、悔しそうな顔をして僕に言った。

津波……彼女は確か津波で家族を亡くしていた。

前に小さな地震が起こった時も、うずくまって泣いていたくらいだ。地震、つまり津波がタイトルになる映画なら、彼女はきっと途中で気分が悪くなってしまうだろう。

「…映画ってキャンセル出来ないのかな?」

僕はついつい心の中で思っていたことを言葉に出してしまった。

すると、彼女はハッとしたように僕の方を向き、僕の肩を軽く叩いた。

「心配しなくっても大丈夫!せっかく来たんだもん、見ていこうよ。遥人君にも迷惑かけたくないしさ。行こ!」

彼女はいつもの笑顔ではなく、作ったような笑顔を顔に貼り付けて、空元気で喋る。

本当に大丈夫なのだろうか。

「違う、僕が気分じゃないんだ。君は僕に迷惑をかけていないよ、大丈夫。キャンセル出来ないか聞いてみよう。」

「あっ…ちょっとまって……!」

僕は気付けば自分から動いていた。今までは誰かの言いなり、受動的にしか動かなかったのに。

これも、彼女のおかげだろうか。


僕は、そこにいたスタッフであろう人に声をかけた。

「すいません、間違えた映画のチケットを買ってしまったみたいなんですが、変更はできませんか?キャンセルでも大丈夫なんですけど……。」

僕がそう言うと、スタッフさんは困ったような顔をして僕たち2人の顔を見て言った。

「申し訳ありませんが、チケットの変更やキャンセルは基本的にできないこととなっております……。ちなみに、その映画は何分後に上映しますか?」

僕は手元のチケットを見て確認した。

「15分後です。」

すると、スタッフさんはさっきに増して困ったような顔をした。

「…だとすると厳しいですね…、すいません。映画を見なくてもいいのですが、払い戻しはできません。」

「そうなんですね、すいません、ありがとうございます。」

僕と彼女はスタッフさんにペコリとお辞儀をして、一旦その場を去った。

僕がさっきの椅子のところに向かっていると、彼女が僕の服の袖を優しく引っ張った。

「ごめん、私のミスだった!気にしないで、見に行こうよ!見なかったらお金勿体ないしさ!」

「……ほんとに大丈夫なの?やめといた方が…」

「もう、大丈夫だってば!ほら上映時間あとちょっとだったし!それに、内容じゃなくて君と観れる事に価値があるってもんよ〜!」

「僕はやめときなって言ったからね。」

「うん、わかってる。」

彼女はどこか決心したような顔をした。

ぶっちゃけ僕は、映画なんだから無理をしなくてもいいのにと思うが、彼女がそこまで言うなら別にいいだろう。

……ポップコーンも映画館で食べた方が倍は美味しいだろうし。


僕と彼女は、足を揃えてシアターに向かった。





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