第9話 チケット


「え、映画……?」

「そうっ!今やってる恋愛映画がいいんだよねぇ〜。君と見たかったんだよ!!」

「へぇ、…恋愛映画ねぇ……」

恋愛映画なんて人生で一度も見たことがない。というより興味も無かった。

「僕、恋愛映画見たことないから盛り上がらないと思うよ?」

「いいんだよ!それも面白いじゃんーさ、上映時間になっちゃう!行こ!」

彼女は満面の笑みでそう言い、僕の手を掴んでショッピングモールへと歩き出した。

僕はいきなり彼女に手を握られたことに驚いたのか、少し顔が熱くなっていくのがわかった。

もしかしたらこの気温のせいかもしれないが。


彼女の後を着いていき、映画館に入る。

「ねぇ、ポップコーン買うでしょ?何がいい?!」

彼女は小さく飛び跳ねながら僕に聞いてくる。

綺麗な髪がサラサラと揺れている。

「え、僕が決めるの?」

「そうだよ!私ポップコーンならなんでも好きだしさっ」

そう言う彼女の視線は、上のモニターのようなものに映し出されていた期間限定のチョコバナナ味のポップコーンに向いていた。

「…チョコバナナ味がいい。」

「やっぱり!?やったー!!」

やっぱり僕の思惑通り、彼女はチョコバナナ味が良かったらしい。僕に選ばせておいてすごく喜んでいる。

「……間違えた、それがいいの?」

彼女はやってしまったと言うように頭をかいた。

僕はそんな彼女を見て、クスッと笑ってしまった。

「なっ!なんで笑ってるの!」

「いや、素直に喜んでもいいのになって……。」

「だって私から聞いたのに……!!」

彼女が困惑している様子を見て、余計に笑ってしまう。彼女は頬を膨らませてご立腹のようだ。

「もー!買いに行ってくるよ?」

「あ、ありがとう。」

彼女はポップコーンを買う人の列に並び、僕は傍にあった椅子に座って彼女を待った。

壁には今上映中であろう映画のポスターがズラリと並んでいた。その中から、今日見るという恋愛映画を探してみる。

子供向けの映画や動物モノ、色々なジャンルの映画が並んでいる。恋愛映画は何個かあったので、結局どれを見るのかは分からなかった。


そんなことをしていると、彼女が両手でポップコーンを抱えて戻ってきた。

「買ってきたー!!行こー!」

彼女は軽い足取りでシアターに向かっていく。

僕は、今日見る映画はなんなのか気になったため、彼女に尋ねてみた。

「今日見る映画って、どういうタイトルなの?」

「えー!興味あるんじゃん!!」

「いいから、教えて?」

余計に興味があると思われそうだが、まぁ別に彼女になら思われてもいいだろう。

「君に想いを伝えたいって名前なんだけど……あれ??ん?」

彼女は手に持っているチケットを眺めながら呟いている。

「どうかしたの?」

僕がそう聞くと、彼女は世界の終わりかという顔で僕に言った。

「…買うチケット、間違えちゃったかも……。」

「えぇ!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る