第6話 半分こ


しばらくして彼女の笑いが収まり、僕がほっとして胸を撫で下ろす。

すると、彼女は僕が座るベンチの隣にドスンと座った。

「私も一緒に食べる~!そのために探してたんだし。いいでしょ?」

彼女は僕に圧をかけるように近付いてくる。

僕が早く返事をしないとそのまま顔がぶつかりそうだったので、「いいよ」と言って一緒に昼食をとることにした。

僕が焼きそばパンを食べ終わり、クリームパンの包みを開けていると、彼女はそれを覗き込んでゴクリと喉を鳴らしていた。

「……美味しそー」

彼女は食べたそうに僕のクリームパンを見つめている。僕は最初こそあげる気はなかったが、結構お腹も膨れていたし、彼女にクリームパンをあげてもいいかな、なんて思っていた。

僕が「あげるよ。」と言おうとした時、彼女が先に口を開いた。

「クリームパンちょうだいっ!!!」

彼女はそう言い、僕の手にあるまだ包みが剥がれていないクリームパンを奪い取った。

「あっ、ちょっと……!!」

僕はあげる前に彼女に奪われ、クリームパンを取り上げられ、自分の善意を無駄にしたと憤慨した。

腹が立ったので、彼女が包みを開ける前にまた取り返した。

「僕のクリームパンだ!せっかく君にあげようと思っていたのに、あげる気が失せたよ。全く。」

「えぇー!私のせい!?お願いぃちょうだーい!」

僕は悩んだ末、彼女に半分だけ分けてあげることにした。

僕が口を開けると、

「あぁ…クリームパンが私に食べて欲しいって言ってる……」

と何度も何度も言うからだ。

僕がクリームパンを半分に割り、彼女に渡してあげると、彼女は目を輝かせて喜んだ。

「え!いいの!?ありがとっ遥人君!!大好き!」

僕は『大好き』という言葉に反応して、顔が赤くなっていくのがわかった。が、言った本人は無意識かと思うほど気にしていないようだった。


全く、彼女には本当に振り回される。


でも、僕自身もそんな彼女といるのが楽しいと感じている。

今までなら、人間関係を持つことが苦手だったが、彼女と一緒にいると、そんなこともないと思い始めた。


僕はそう思いながら、彼女と半分こしたクリームパンを口に頬張った。心の中で、いつもより美味しい気がしていた。僕はまた、自然と笑みが零れた。


ふと横を見ると、僕と同じ様に、美味しそうにクリームパンを頬張る彼女の姿が目に入る。

そんなに美味しかったのだろうか?

「他に、持ってきてないの?」

僕が聞くと、彼女は意識をクリームパンから僕に移して言った。

「買ってないよー」

彼女は口の中にクリームパンが入ったまんま話す。

僕は、「お腹空かないの?君は。」と聞き返した。

すると彼女は「ちょっとまって、」と言ってクリームパンを流し込んでから口を開いた。

「私、前両親が地震で亡くなったって言ったじゃん?その時からおばあちゃんに引き取って貰ってるんだけどさ。流石に何年も養ってもらってて悪いなーって思って、食費とか自分にかかるお金は全部アルバイトで稼いでるんだー。だからなるべく節約!!将来のためにもなるし。」

彼女は胸をドンと叩いた。

僕は、彼女がそのような考えを持っていた事に、素直に感心した。僕なら、そんな発想には絶対に至らなかった。僕なら養ってもらえていることに感謝することしか出来ないだろう。

僕は、思ったことを素直に彼女に伝えた。

「すごいや、少し君のことを見直したよ。」

僕がそういうと、彼女は少し照れくさそうに頭を掻きながら、「えへへ、そーかなー。」と言った。


でもまたすぐいつもの調子に戻り、

「ってことだから!毎日お昼奢ってよ!」

と僕の肩を叩きながら言う。

僕は呆れて、溜息をつきながら「やっぱ前言撤回で。」と言った。


そこでちょうど、昼休み終了のチャイムが鳴る。

「やっば、教室戻ろ!」

と彼女が僕の手を引っ張った。

きっと前までの僕なら抵抗していただろうが、もうそんな僕とはさよならしたんだ。

もう、以前の僕とは違うんだ。


今は素直に、彼女の後をついて行った。

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