第5話 緩む頬


キーンコーンカーンコーン

授業が始まる合図のチャイムがなり、教科担任が教室に入ってくる。

号令係の合図に合わせて僕たちは一斉に礼をする。

席に座り、指定された教科書のページを開く。

僕がページをパラパラとめくっていると、隣の彼女が僕に声をかけた。

「ねぇ、教科書、見せて。まだ貰ってなくてさ。ね?」

彼女は顔の前で手を握って僕にお願いしてくる。

仕方ないなと言いつつも、自分から彼女の机に自分の机をくっつける。

僕はめくり途中だったページを開き、彼女の机と僕の机の間に置いた。

あいにく1番後ろの窓際という端の席なので、別に先生から怪しまれることもない。

彼女は「ほんとにありがと!」と言ってにこっと笑った。

僕も釣られて笑顔になりそうになったが、ハッとして顔を叩いた。

「なんで顔叩くの、痛いでしょ?」

彼女は僕の顔を心配そうな顔をして覗き込んでくる。

僕は叩いた衝撃と恥ずかしいので顔が赤くなってしまった。

彼女はそんな僕の様子を見て、ふふっと小さく笑った。余計に恥ずかしくなって、顔を窓の方に背けた。


キーンコーンカーンコーン……

授業終わりのチャイムが鳴る。

やっと1限目が終わった。彼女が隣にいるから緊張して、なんだか落ち着かない1時間だった。


それを繰り返すようにしてやっと午前の授業が終わり、昼休みになった。

僕は机の横のカバンに入れておいた財布を取り出し、チャイムと同時にそそくさと教室を出る。

そして下に降りて、購買にいち早くつき、お気に入りの焼きそばパンとクリームパン、そしてパックの麦茶を買った。

そして屋上に向かうための階段を登る。

ここの学校は屋上へ行く道が別にあり、しかもそこだけ新しくなく、古くて汚いことから人が少ない。

昼休みでさえもたまに人が来るくらいだ。

うるさくはならない。


僕はそっとベンチに腰をかけ、さっき買った焼きそばパンの包みを開けた。

風を感じながら、僕は焼きそばパンを口に頬張る。


きっとどこかの有名なパン屋の方が美味しいのだろうが、僕はこの素朴な味が好きだ。

僕は麦茶のパックもストローを刺して一気に飲み干した。

「ぷはぁ~」と声を漏らした。

すると、屋上の扉が開く気配がした。

昼休みだし、誰か来てもおかしくないだろう。別になんでもいい……が、もしかしたら彼女かもしれない。

そう思って、いつもは気にしないのに、今日は後ろを振り向いてそれが誰か確認した。


入ってきたのは僕の予想通り、彼女だった。


彼女は風で顔にかかる綺麗な髪を耳にかけながら、辺りをキョロキョロと見渡していた。

何か探しているのだろうか。

僕は声をかけようと思ったが、別に彼女は僕が声をかけたところで何も無いだろうと思い、またベンチに座り直して、食べかけの焼きそばパンを口に入れた。

すると、誰かに肩をポンポンと叩かれた。

「誰ですか」と言いながら振り返ると、すぐそこに彼女がたっていた。

「探してたんだよ、遥人君!!」

「……え?どうして僕を?」

僕は思わず思ったことをそのまま口に出してしまった。彼女は笑顔で、

「だって一緒にお弁当食べたかったんだもん!!教室に行ってもいないし、遥人君のクラスの子に聞いても知らないって言うんだもん。走り回ってたんだよ私!!」

と、彼女は途中で息も吸わずに早口で僕に言った。

僕は口を開けてそれを聞いていた。

まさか僕と一緒にお弁当を食べたいと思っている人がいるとは思わなかったのだ。

僕は心の中で少し嬉しいと思っていた。


僕がどうすればいいのか分からずに、口を開けて呆然と彼女の顔を眺めていると、彼女の顔がふっと歪んだと思えばブハッと笑いだした。

「あははははっ!なんでそんなにっ…口開けてんのっ……あはは!!」

彼女はお腹を抑えて笑っている。

僕は、「そんなに面白い??」とタメ口で聞いてしまった。すると、彼女はハッとしたように驚いた顔をし、

「そうだよ!タメ口!タメ口で話して!」

と言った。僕は頭を抱え、やってしまった……と呟いた。そんな様子を見ても、彼女は笑っている。

本当に何が面白いのか分からなかったが、彼女が本当に楽しそうに笑うもんなので、僕も少し頬が緩んだ気がした。

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