第3話 まだ小さな揺れ。

※地震についての描写があります。苦手な方はこのページを閉じてください。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ガタガタガタ……

地面が揺れている。それに、ここは学校の屋上、それなりに高いから、下より揺れが大きいだろう。

フェンスから手を離し、なるべく内側による。

その場で呆然と立ち尽くしている彼女の手を引っ張り、落ちない所で頭を抱えてうずくまった。


ポケットに入れておいたスマートフォンから緊急地震速報が鳴る。

『ヴヴッヴヴッヴヴッ…地震です、強い揺れに警戒してください__』

それほど大きな地震ではないが、この警報の音が僕たちの恐怖、不安を大きくする。

彼女は耳を塞いでいた。

しばらくして揺れが落ち着いてきた頃、地域の防災無線、そして学校でも放送がなった。

聞きなれた担任の声だった。

「ただいま地震が発生しました。津波の心配はないそうです。生徒の皆さんは速やかに下校してください。」

それを聞いて僕は隣でうずくまっている彼女に声をかけた。

「大丈夫ですよ、震度4だ。帰りましょう。」

彼女は今にも泣き出しそうな顔でコクリと頷き、僕の服の裾を掴んだ。僕は内心驚いたが、気が付かない振りをしてそのまま鞄を拾って下駄箱まで歩いていった。


その途中、彼女が僕に話しかけてきた。

「…私ね、小さい時に大きい地震にあったの。その時に、津波で両親を亡くして…今でもはっきり覚えてる。私の心情一つ一つも、その時の様子の一つ一つも。ごめんね…迷惑かけて。」

彼女は今にも泣きそうな声で言った。

僕はそんな彼女を見て、不覚にも自分が可哀想だと思っていることに気がついてしまった。

今まで他人の感情なんてどうでもよかったのに。どうも彼女といると自分の気が変わってしまう。

「迷惑かかってませんよ。」

僕はいつも通りの平静を装って彼女に言った。

彼女はこちらを向いてにこりと笑った。

「ふふ、ありがとう。優しいね、遥人君は。」

僕はなんて返せばいいのか分からずに、「ありがとう」と一言言った。


なんだかんだで下駄箱に着いたので、僕は別れの挨拶をする。

「じゃあ、僕はここで失礼します。さよなら。」

僕が会釈をして外に出ると、彼女が僕のことを呼び止めた。

「ちょっと!待って!連絡先交換しよ??」

彼女は自分の鞄からスマートフォンを取り出して僕に差し出した。

「ほら、QRコード。」

彼女は自分のスマートフォンにQRコードを出した。僕はなんのことを言っているか分からずに、オドオドする。「え、えっと…??」

僕がそういうと、彼女はブフォッと吹き出して言った。

「嘘でしょ…!あははは!!LINE追加しよって!QRコード知らないの??…あはは!」

ツボにハマったのか笑いながら喋って息が大変なことになっている。呼吸が苦しそうだ。

「え、分かりません。」

「教えてあげるって!!これをこうして…」

彼女の顔が僕の真横にある。不覚にも心臓の鼓動が早くなってしまう。

僕が勝手にドキドキしていると、彼女が急に顔を上げた。そして僕の顔に思いっきりぶつかった。

「いって!!」

彼女はすごく心配そうな顔で僕の顔を覗いている。

「大丈夫、大丈夫ですから。」

僕はイテテと額を擦って彼女に言った。

「ほんとにごめんんん」

彼女は顔の前で手のひらを合わせて誤っている。僕は「ほんとに大丈夫ですから!」と言った。

「それよりも、ありがとうございます。教えてくれて。」

「え、あぁ。気にしないで!!それよりもごめんおでこ痛そう…ちょっと赤いよ??」

「え、嘘ですよね」

「ほんとだって、わざわざそんな嘘つかないし!」

僕は試しに額を少し触ってみたが、触れるだけで痛みが走った。そんなに強くぶつけてないと思うが。

「私の頭が石頭なのかも〜〜ほんとにごめんー!」

彼女は僕の額をスリスリと触った。

「いや、ほんとに痛くないです。」

何とか彼女の謝りを収めようとしたが、なかなか彼女は謝るのを辞めない。

僕はもう懲り懲りして、彼女に言った。

「ほんとに大丈夫ですってば、謝んないでください。連絡先も、ありがとうございます。では。」

僕は次こそ深く会釈をし、その場を去った。

後ろから彼女が

「ほんとにごめんってばー!またねー!!また明日ねーー!」

と叫んでいる。

こんなに異性と話すのは久しぶりで、流石の僕でも今日は少しだけ嬉しかった。

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