第2話 変わっている彼女。


「天野蒼空です。よろしくお願いします!!」

転入生の彼女は、外見から想像する声と同じ可愛らしい声で元気よくそういった。

クラス中から大きな拍手が起こる。

僕も紛れて、小さく拍手をした。

「じゃあ天野はえーっと……窓際の後ろな。」

多分僕の名前を思い出せなかったのだろう。影が薄いから。

それでも、別に構わないが。

彼女は、「はいっ」と返事をしてから僕の方に歩いてきた。いや、席に向かって歩いてきた。

彼女が持っていたカバンを机の横に掛け、僕の方を向いた。

「よろしくね、えっと、名前なんて言うの??」

急に彼女が話しかけてきたため、僕は焦った。

「あ、あえっと、谷川 遥人です。よろしくお願いします。」

少し戸惑いながらも絞り出した僕の言葉は、弱々しくて、彼女の耳に届いているか分からなかったが、彼女は一生懸命に僕の話を聞いてくれていた。

「遥人くんね。おっけー!」

彼女は片手でおっけー!とポーズを作って、前を向き直った。


……変わった人だ。

それが、僕が彼女に対して思った最初の気持ちだった。


キーンコーンカーンコーン……

6時間目の授業終わりのチャイムがなる。

僕はチャイムと同時に席をたち、そそくさと屋上に向かった。

僕は、屋上が1番好きなのだ。なぜなら、1人になれるから。常にザワザワしている教室や廊下は、どうも落ち着かないのだ。

僕は屋上に向かうギシギシと音が鳴る階段を登り、ドアを開けた。一気に風がバアッと吹く。

髪の毛が上に上がった。でもそんなことは気にせずに、僕は入ってきたドアを閉め、端っこのフェンスに寄りかかった。


風が気持ちいい。特に景色が言い訳でもなく、別に普通なのだが、このふつうが僕は好きだ。


そんなことを考えながら、僕が風を受けていると、誰かがドアを開ける気配がした。

僕がなんだと思い振り返って目に入ったのは、転入生の彼女だった。

いきなりのことに僕は驚いて1歩後ずさった。

「ちょっと、後退らないでよ〜」

彼女は軽く笑って僕に言った。

「えっと……れいこ、さんですよね。」

僕は自己紹介の時のことを必死に思い出しながら、彼女に聞いた。すると、彼女はそれを聞いて笑った。

「れいこって…あはは!!蒼空だよ!そ、ら、!全然違うじゃんよ!」

名前を間違えてしまった。僕は彼女にぺこりとお辞儀をして謝った。

「いいよ、謝んなくて。それより、この学校屋上があるんだね〜…しかも綺麗!!」

彼女は僕の隣に来て、僕と同じようにフェンスに寄りかかった。

僕はそんな彼女にまたしても驚いたが、その気持ちを隠して平静を装った。そして、

「はい、そうですね。」といった。

彼女は空じゃなくて僕を見て、驚いた顔をした。

僕と違って、感情を表に出すのが得意な人なんだなぁと感心した。

「なんで敬語なの?普通に話そーよ」

彼女は不思議そうな顔をして聞いてきた。

僕は当たり前だと言うように言った。

「だって初対面じゃないですか。」

「あ〜もう!堅苦しいなぁ〜遥人君は〜!」

彼女は頬をぷっくり膨らませ、腰に手をかけて言った。本当に顔が整っている。

僕はそんな彼女を見てまた首だけ曲げて謝ってから、空を見た。午前中に比べて雲が増えてきた。


僕がぼーっと空を見ていると、彼女が急に声を上げた。

「あ、地震雲だ。」

「地震雲…ってなんですか??」

「この雲が出たら地震が起きますよーっていう予兆みたいな感じかな。」

「へぇ、ためになるかわかりませんが覚えておきますね。」

僕は豆知識を聞いて自分の知識が増えた気がして、少し嬉しいな、と思った。


その瞬間だった。

地面が、ガタガタと揺れだしたのだ。

……地震だ。

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